ANALYSISグローバル2026-09-10

「株式のトークン化」の勝敗は、台帳が株主名簿になれるかで決まる

「株式のトークン化」と一括りにされる案件は、投資家が最終的に何を持っているかで法的にまったく別物になる。米SECは2026年1月にこの区別を公式に整理し、日本のワーキング・グループは同年4月、原株そのもののトークン化を避ける結論を出した。本稿は乱立する方式を2つの軸で6類型に分解し、どれが制度として残るかを検討する。

BY 石田陽之 · 11 MIN READ

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トークン化株式の残高は、集計サイトrwa.xyzのデータで2026年8月13日時点の流通ベース約25億ドル(約3,845億円)にとどまる。以下、円換算は1ドル=153.80円、1ユーロ=178.35円(いずれも2026年9月9日ニューヨーク市場終値、換算は筆者による)。CoinGeckoの集計では2026年第1四半期のスポット売買代金が151億ドル(約2兆3,224億円)に達したが、上位5銘柄でも現物株式市場の売買代金の1%に満たない。

規模は小さい。それでも論じる価値があるのは、市場インフラの中核が動いたからだ。SECは2025年12月11日にDTC(米国の証券保管振替機関)へノーアクションレターを出してトークン化の試験運用を認め、2026年3月18日にはナスダックの規則改正(SR-NASDAQ-2025-072)を承認した。NYSEも同等の規則を申請している。

ここで問題が生じる。SPVに対する債権証書と、原株とCUSIP(証券識別番号)が同一の証券持分とが、同じ「トークン化株式」という言葉で呼ばれている。この混同は、商品審査と顧客説明の実務に直接跳ね返る。

分類軸は「発行体の関与」と「台帳の地位」の2つしかない

SECスタッフが2026年1月28日に公表した声明は、トークン化証券を、発行体が関与するものと、発行体と無関係の第三者が組成するものに二分した。もう1つの軸は、ブロックチェーンの記録が権利帰属の正本そのものか、オフチェーンの名簿を更新するための指図にすぎないかである。この2軸を掛け合わせると、実務上は次の6類型に整理できる。

類型代表例投資家が保有するもの議決権・配当権利帰属の正本根拠法の例
A 発行体主導/台帳=名簿Superstate Opening Bell(GLXY、FWDI)、ドイツeWpGのクリプト株式原株そのものありブロックチェーン米各州UCC8条、独eWpG16条
B 発行体主導/台帳=指図SECが第2モデルとして提示原株そのものありオフチェーンの株主名簿同上
C 第三者・保管型(証券持分)DTC試験運用、ナスダック/NYSEのトークン化取引原株に対する間接的持分あり(原株と同一)DTCの帳簿米UCC8条の証券持分
D 第三者・保管型(預託証券)外国株JDR、日本の「マイクロ株」構想信託受益権信託を通じて実質的に帰属振替口座簿(+オンチェーン連携)金商法の有価証券信託受益証券
E 第三者・合成型(リンク証券)xStocks(AAPLx等)のトラッカー証書発行SPVに対する債権なしブロックチェーンスイス債務法973d条
F 第三者・合成型(スワップ)証券ベーススワップ型トークン契約上の請求権なし契約・清算機関の記録米証券取引所法3条(a)(68)

なお米国法上はCとDが接近しており、SECは「デジタル・カストディアル・レシート」を証券持分型と別物とは扱わないとしている。日本のD型を独立させたのは、信託受益権としての整理が別建てで必要になるためである。

同じ「トークン化」でも、A型とE型は正反対である。A型では株主名簿がチェーン上にあり、投資家は株主として登録される。E型ではブロックチェーンが正本だが、その正本が記録しているのはSPVに対する債権であって株主の地位ではない。xStocksの発行体は法的にはジャージー籍のSPVであり、保有者は議決権も情報請求権も持たない。欧州のDLTパイロット制度はA型に近い運用を認めているが、1つの取引施設が扱える証券総額に60億ユーロ(約1兆701億円)の上限があり、大手が参入しない理由になってきた。2026年9月9日には証券会社10社と16のフィンテック団体が、この上限の撤廃を欧州議会・理事会に求める連名書簡を出している。

台帳が名簿でないなら、それは「速い伝票」にすぎない

C型の代表であるナスダックのモデルでは、トークン化された証券は原株と同一のCUSIP・同一の銘柄コードを持ち、同一の板で同一の執行優先順位で取引される。権利が同一であることが条件とされ、これを満たさない商品はデリバティブやADRとして別扱いになると規則上明示されている。一方で決済期間はT+1のまま据え置かれ、正本はDTCの帳簿にある。オンチェーン化しても決済サイクルは縮んでいない。

発行体主導のSuperstateについても、SEC登録の移転代理人が株主名簿を維持しており、正本がオンチェーンなのかオフチェーンなのかは業界内で争いがある。ここが核心である。台帳が正本になっている類型のうち実際に大きな残高を持つのはE型、すなわち原株ではないほうだ。逆に原株そのものを扱う類型では、正本は既存の名簿や振替制度に残っている。「台帳が正本であること」と「対象が原株そのものであること」は、現状ほとんど両立していない。

日本の答えは「原株のトークン化」ではなく「預託証券のトークン化」

Progmatが運営するデジタルアセット共創コンソーシアムは2026年4月7日、「トークン化株式」に関する中間整理を公表した。結論は、原株を受益証券発行信託で包み、受益権付与率を乗じて超小口化した「マイクロ株」を、証券保管振替機構を介した振替証券として上場させたうえで、私設取引システム(PTS)や証券会社との相対取引をオンチェーンで補完する、というものである。表のD型にあたる。

なぜ原株そのものをオンチェーン化しないのか。理由は既存インフラとの重複だけではなく、税制にもある。マイクロ株を非上場の電子記録移転有価証券として組成すると、原株との簿価引継が認められず転換時に譲渡損益が生じ、租税特別措置法の上場要件を満たさないためNISAの対象からも外れる。日経300連動ETFのために平成7年度改正で手当てされた簿価引継の特例は、需要がないとして平成14年度改正で廃止されている。

超小口化の効用は具体的だ。単元株制度により上場株式の取引単位は100株であり、1株1万円の銘柄では単元が100万円になる。受益権付与率を1/100とすれば1口100円で取引できる。24時間化については、東証の取引時間を動かさずPTSのナイトタイムを前後に拡張し、ステーブルコインによるDvP決済でT+2をT+0に短縮する道筋が示された。総株主通知が最も高頻度でも四半期に1回という現状に対し、権利者情報をリアルタイムで把握できる点も効用に挙げられている。

反論はどこにあるか

最も強い反論はこうだ。残高と売買代金が示すとおり、実需があるのは議決権のない合成型だけである。xStocksが伸びたのは米国外の個人投資家が米国株へ24時間アクセスできるからであって、誰も議決権を求めていない。ならば「台帳が名簿になるか」は市場が問うていない論点であり、勝つのは規制が許す範囲で最も便利な合成型ではないか。

この反論には説得力がある。ただし3点を置きたい。第一に、SECは2026年1月の声明で、発行体が関与しないトークン化株式も証券法制やデリバティブ規制の適用対象になると明示した。合成型は規制の外側にある商品ではなくなった。第二に、合成型の弱点は担保にある。xStocksでは裏付けとなる原株の貸株がプログラム全体の既定オプションとされ、貸出中の株式は担保勘定を離れて現金に置き換わる。完全担保という説明は、保有者が株主ではないという事実を消さない。第三に、上位銘柄でも現物市場の1%未満という流動性では、裁定が働かず価格乖離が恒常化する余地が残る。

とはいえ反論が正しい部分もある。原株そのもののトークン化が既存インフラの置換コストを上回る効用を持つ証明は、まだない。米国のDTC試験運用が決済期間をT+1のまま維持していることが、その何よりの証拠である。

したがって見立てはこうなる。当面の量は合成型が握るが、量が増えるほど規制と担保の論点が効いてくる。制度として残るのは、発行体または既存の保管振替機関が関与し、権利が原株と同一である類型であり、台帳が正本になるかどうかは、保管振替機関のシステムが段階的にオンチェーン化するかに従属する。日本の中間整理が「振替証券のまま連携」を選んだのは、この従属関係を正しく読んだ設計だと考えられる。

日本の金融機関にとっての意味

第一に、商品審査の起点を「投資家が何を保有するか」に置き、検討対象を必ず6類型のどこかに落とすこと。原株か第三者への債権かで、顧客説明義務と適合性判断の水準が変わる。

第二に、マイクロ株が振替証券として上場する前提なら、必要な対応の大半はオンチェーン側にはない。東証・保振の規程改正と、振替口座簿とオンチェーン基盤の同期設計が本丸であり、デジタル証券の部署ではなく既存の決済・事務部門の課題になる。

第三に、24時間取引はステーブルコイン決済とセットでしか成立しない。PTSのナイトタイム拡張と電子決済手段によるDvPの導入を、別々の検討事項として扱うべきではない。

出典


本記事は公開情報に基づく分析であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-10

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WRITTEN BY
石田陽之

石田陽之

編集長

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

@akihisa_ishida →

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