シティグループがトークン化預金を用いた海外送金サービスを日本企業向けに2026年内にも開始する方針であることが、日本経済新聞の9月9日の報道で明らかになった。同社サービス部門グローバル責任者のシャミール・カリク氏が同紙の取材に応じたもので、外資系金融機関による日本企業向けの同種サービスとしては初とされる。利用企業は米国・英国・シンガポール・香港・アイルランドの拠点との間で、夜間や休日も外貨を即時に送金できるという。シティ自身の公式発表は確認できておらず、開始時期・対象通貨・料金は未確定である。
何が起きたか
シティは、参加者を限定した許可型ブロックチェーン上で自行拠点間の24時間資金移動を可能にする「シティ・トークン・サービス」を運営している。報道によれば、この仕組みを日本企業向けに開放する。企業は送金指示画面でトークンサービスを選択するだけでよく、関連する事務とリスク管理はシティが担うため事前準備はほぼ不要とされる。将来的には他行との間でトークン化預金をやり取りする展開も視野に入れているという。直近では9月7日に、DBS銀行がシティとの間でSwiftのブロックチェーン基盤を使い週末の米ドル建て国際決済を完了したと発表しており、シティによればこれは2026年7月から12月にかけての限定的な概念実証の一環である。
なぜ重要か
日本企業の外貨資金管理は、国内銀行のカットオフ時間と海外コルレス網の営業日に縛られてきた。夜間・休日の即時送金が外資系から提供されれば、この制約は技術的に解けない問題ではなく、どの銀行を使うかの問題に変わる。邦銀にとっては、トークン化預金基盤の有無が法人取引の獲得競争に直結する局面に入ったことを意味する。企業側の準備がほぼ不要という設計は、導入障壁の低さで既存の取引関係を突き崩しにくる。国内では21社共同のステーブルコイン発行会社や政府・日銀の次世代決済インフラ検討が進むが、いずれも稼働はこれからである。
注視点
第一に、シティの公式発表がいつ出るか。現時点の情報は日経の単独取材に依拠しており、対象拠点や料金体系は確認できていない。第二に、円をトークン化預金として扱うのか、円は既存の国内決済に残して外貨側だけをトークン化するのかで、資金決済法上の整理と邦銀への影響度が変わる。第三に、他行接続の実現時期である。単独行内のサービスにとどまるか業界インフラになるかは、ここで分かれる。
用語解説
- トークン化預金:銀行が自行の預金債務をブロックチェーン上のトークンとして記録し、移転できるようにしたもの。ステーブルコインと異なり預金保険や銀行規制の枠内にとどまり、発行体は預金者に対する債務者のままである。既存の預金勘定を置き換えるのではなく、記録と移転の手段を差し替える発想に近い。
- 許可型ブロックチェーン:参加者を事前に審査・限定したうえで運営する分散台帳。誰でも参加できる公開型と異なり、取引相手の身元確認と規制対応が前提の金融機関間取引に向く。反面、参加者を集めなければ効用が出ないため、ネットワーク構築が事業上の最大の課題になる。
- コルレス網:海外送金を実現するために銀行同士が相互に口座を開設し合う関係の総称。多段階の中継を経るため、着金までの時間と手数料が相手国と時間帯に左右される。トークン化預金が狙うのは、この多段階構造を同一台帳上の記録更新に置き換えることである。
- カットオフ時間:その日のうちに処理される送金指示の受付締切時刻。営業日と時差が重なることで、金曜午後の指示が翌週着金になるといった事態が生じる。24時間稼働の台帳は、この概念そのものを不要にする可能性がある。
- 概念実証(PoC):本番導入の前に、限られた参加者・取引で技術と業務の成立性を検証する段階。期間と対象が区切られている点で本番稼働とは区別され、成功が商用化を意味するわけではない。
出典
- 日本経済新聞(2026年9月9日): https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB067P50W6A800C2000000/
- あたらしい経済「シティ、日本企業向けにトークン化預金で海外送金へ。年内にも開始=報道」(2026年9月9日): https://www.neweconomy.jp/posts/606330
- Citigroup「Citi Unveils Strategic Expansion of Citi Token Services」: https://www.citigroup.com/global/news/press-release/2025/citi-unveils-strategic-expansion-citi-token-services-euro-integration
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。