NEWS欧州制度①案の公表・意見募集2026-09-10

欧州DLTパイロット制度、業界26者が残高上限の撤廃を要求 1,000億ユーロ案でも「足りない」

制度が使われない理由を、使う側が数字で示した。上限をどこに置くかという問いは、日本のセキュリティトークン市場にもそのまま返ってくる。

BY OFM Research · 5 MIN READ

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ナスダックなど証券会社10社と16のフィンテック団体が、EUのDLTパイロット制度の取扱残高上限を撤廃するよう求める連名書簡を、欧州議会と理事会の議員宛てに提出した。現行上限は1取引施設あたり総額60億ユーロ(約1兆701億円)で、欧州委員会は2025年12月のMISP案で1,000億ユーロへの引き上げを提案している。署名者はこれでも足りないとし、撤廃を第一に、残すなら1.5兆ユーロを起点とするよう求めた。円換算は1ユーロ=178.35円(9月9日終値)による筆者計算。

何が起きたか

書簡は、上限を残すのであれば欧州委員会が数値上の天井に縛られずに調整できる権限を持つべきだと主張する。固定的な上限は長期の設備投資判断における規制の予見可能性を損ない、枠組みが将来陳腐化するとの見込みを市場参加者に与える、というのが理屈である。報道によれば署名者は、既存の欧州プロジェクトのなかにすでに3,500億ユーロ(約62兆4,225億円)規模に達しているものがあると指摘し、1,000億ユーロは欧州株式市場の規模に照らして控えめだと述べている。米国でDTCCがノーアクションレターにより桁違いの規模のトークン化を可能にした点にも、組織名を挙げずに言及した。要求にはもう一点、上限を維持する場合は新規のDLT取引施設だけでなく既存の証券保管振替機関にも同一に適用すべきという主張が含まれる。同制度をめぐっては2026年2月に既存ライセンシー9社が、4月には約40組織が、MISPから切り離した先行改正を求めていた。

なぜ重要か

制度が存在することと、制度が使われることは別だという事実を、使う側が数値で説明した文書である。EUが2023年に始めたDLTパイロット制度に大手が参加しなかったのは、上限が機関投資家の取引規模に対して小さすぎたためだった。日本でも電子記録移転有価証券の制度は整備済みだが、流通市場は事実上立ち上がっていない。制度の有無ではなく、制度が想定する規模が実務に合っているかを検証する視点は、日本の証券会社や取引所が自社のセキュリティトークン戦略を評価する際にそのまま使える。既存の証券保管振替機関にも同一の上限を求めた点も、新旧インフラの競争条件をどう揃えるかという普遍的な論点を突いている。

注視点

MISPは約18本の金融法制を束ねた包括案で、成立までに相当の時間を要する。DLTパイロット制度の改正だけを切り離す「クイックフィックス」が認められるかが第一の分岐点となる。第二に、上限が大幅に引き上げられた場合、機関投資家の資金が欧州の取引施設と米国のDTCC経由モデルのどちらに向かうか。第三に、既存CSDへの同一適用要求が容れられるかどうかで、欧州の市場インフラ競争の構図が変わる。

用語解説

  • DLTパイロット制度:EUが2023年に施行した、分散台帳を用いた証券の取引・決済を既存規制の一部免除のもとで試すための枠組み。DLT市場運営者、DLT決済システム、両者を兼ねるDLT取引決済システムの3類型があり、単一の事業者が取引と決済を一体で提供できる点が既存制度との最大の違いである。
  • 残高上限(ボリューム・キャップ):DLT取引施設が扱える証券の総額に課された制限。投資家保護と金融安定への影響を限定する趣旨だが、規模が小さすぎると機関投資家にとって参入する意味がなくなるというジレンマがある。今回の書簡はこのジレンマを正面から突いている。
  • MISP(市場統合・監督パッケージ):欧州委員会が2025年12月に公表した資本市場法制の包括的な改正提案。DLTパイロット制度の改正はこの中に含まれており、それゆえに他の政治的に複雑な論点と一体で審議されることになる。
  • CSD(証券保管振替機関):証券の保有記録を集中管理し、決済を行う市場インフラ。日本では証券保管振替機構が該当する。DLT決済システムはこのCSD機能を分散台帳で代替しようとするもので、両者の競争条件をどう設定するかが今回の論点のひとつになっている。
  • クイックフィックス:包括的な法改正の成立を待たず、緊急性の高い条項だけを切り出して先行的に立法する手法。EUではコロナ禍の資本市場規制などで用いられた前例がある。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-10

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