NEWS米国実装②限定実装(パイロット)2026-09-10

USバンク、自行ステーブルコイン「USBDC」で実送金を完了 ただしグループ内資金移動

公開ブロックチェーン上で銀行が自ら発行したトークンを動かした。ただし相手は顧客ではなく自分自身であり、「稼働」と呼ぶには距離がある。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

USバンクは2026年9月9日、自行が発行する米ドル建てステーブルコイン「USBDC」を用いたクロスボーダー送金の実取引を完了したと発表した。取引はステラ(Stellar)ブロックチェーン上で行われ、北米と欧州のUSバンク拠点間で資金を移動させた。銀行発行のステーブルコインが公開ブロックチェーンに展開された初期の事例のひとつだと同行は説明する。ただし今回の取引は顧客送金ではなくグループ内の資金移動であり、同行は顧客向け提供の時期や商用展開の日程を示していない。

何が起きたか

発表によれば、今回のパイロットでは発行(ミント)、償還、凍結、クローバック(回収)の各機能が検証された。あわせて、同行が内製した「デジタル・アセット・プラットフォーム」がブロックチェーンと自行の財務・リスク・コンプライアンス・オペレーション基盤を接続することも確認されている。同行のガンジャン・ケディア会長兼CEOは、今回の実証がグローバルな資金管理と資金移動の高度化を実証するものだと述べた。USバンクは2025年11月、ステラ開発財団およびPwCと組んで独自ステーブルコインの発行基盤を構築する計画を明らかにしていたが、その段階では発行能力の構築が中心で、実取引は行っていなかった。同行は今後の用途として、クロスボーダーの資金管理、流動性管理、担保の移動を挙げている。

なぜ重要か

注目すべきは、凍結とクローバックが検証項目に明示された点である。公開ブロックチェーンは本来、第三者が保有者の残高を動かせない設計を強みとするが、銀行が発行体になる以上、誤送金の取消しや制裁対象口座の凍結ができなければ規制上の要求を満たせない。USバンクはこの矛盾を、ステラの基盤機能で解いた形になる。日本の銀行が資金決済法上の電子決済手段を公開チェーンで扱う場合も、同じ論点は必ず立つ。もうひとつは接続先である。効用の源泉はトークンそのものではなく、勘定系や規制報告と接続する内製基盤にあるという整理は、邦銀が投資判断を行う際の視点として実務的である。

注視点

第一に、グループ内資金移動から顧客送金への移行時期。同行はこの日程を示していない。第二に、同行がゼル(Zelle)の共同保有者であり、ゼル自身も独自ステーブルコインの発行を計画している点である。法人向けのUSBDCと個人向けのゼル系トークンをどう役割分担するかは未整理である。第三に、9月に設立が公表された21社共同のステーブルコイン発行会社と、こうした単独行発行のトークンが併存するのか、いずれかに収斂するのかという業界構造の問題である。

用語解説

  • ステーブルコイン:法定通貨などに価値を連動させたトークン。銀行が発行する場合、発行体の債務であることは預金と同じだが、預金保険の対象外となる設計が一般的で、法的な位置づけは各国の制度によって異なる。米国ではGENIUS法が発行体の要件を定めている。
  • クローバック(回収):発行体が、保有者の同意なくトークンを回収する機能。誤送金の取消しや裁判所命令への対応に必要とされる一方、保有者から見れば発行体が残高を一方的に動かせることを意味する。公開ブロックチェーンの前提と規制上の要求が衝突する典型的な論点である。
  • ステラ(Stellar):送金・決済用途を想定して設計された公開ブロックチェーン。発行体が資産の凍結や信頼できる相手先の限定を基盤レベルで設定できる仕組みを備えており、規制対象事業者による利用が比較的多い。
  • グループ内資金移動:同一企業グループの拠点間で行う資金の移動。法的な権利者は移動の前後で変わらないため、顧客間の送金と比べて権利移転や資金決済法上の論点が生じにくい。パイロットの成果を評価する際は、この違いを踏まえる必要がある。
  • デジタル・アセット・プラットフォーム:USバンクが内製した、ブロックチェーンと既存の銀行基幹系システムを接続する層。トークン化の実務負荷の大半は、台帳側ではなくこの接続層と、その先の会計・規制報告に発生する。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-10

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週お届け

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。