ZKsyncの開発元であるMatter Labsは2026年9月9日、金融機関向けのプライバシー重視ブロックチェーン基盤「Prividium」の中核をオープンソース化したと発表した。同社によれば、ドイツ連邦銀行が自らのインフラ上に同基盤を展開した最初の機関であり、スマートコントラクトとトークンのデータは中央銀行の環境内にとどまるという。ただしドイツ連銀はこの件についてコメントしておらず、試験の目的も公表されていない。オープンソース化により、商用契約なしに許可型チェーンを運用することが可能になる。
何が起きたか
オープンソース化されたのは、Prividiumチェーン上で誰が読み書きできるかを決める役割・アクセス権限の管理エンジンである。ZKsyncの構成要素の多くはすでにオープンソースだったため、この部分が公開されたことで、金融機関は公開コードのみで許可型チェーンを構築できるようになる。一方でMatter Labsは、管理コンソール、利用者アクセス管理ツール、勘定系との接続を含むコネクタ類を有償製品として残している。Prividiumの設計思想は、取引データを機関内部にとどめ、台帳が正しく更新されたことの暗号学的証明のみをイーサリアムなど外部のチェーンに記録するというものである。同社CEOのアレックス・グルホフスキー氏は今回の公開を「土台であって到達点ではない」と位置づけ、次の課題は機関ごとのチェーン同士、および公開市場との相互接続だと述べた。ドイチェ・バンクのトークン化ファンド案件やUBSのデジタルゴールドの概念実証でもZKsyncが用いられている。
なぜ重要か
日本でも政府・日銀が国債と株式の即時決済に向けた基盤整備を検討していると報じられており、その際に中央銀行がどの層を自ら保有するかは中心的な論点になる。今回の事例は、中央銀行が外部事業者のクラウドではなく自らの環境で基盤を動かすという選択肢が現実にあることを示している。もう一点は、金融機関ごとに個別のチェーンが乱立したときの相互接続である。Matter Labs自身がこれを次の課題と認めているとおり、機関別チェーンは分断を生む。1つの共通台帳に集約するのか、機関別チェーンを相互接続するのかという設計判断は、日本の次世代決済インフラ検討でも避けて通れない。
注視点
最大の未確認事項は、ドイツ連銀が何を検証しているのかである。同行がコメントしていない以上、現時点の情報はすべてベンダー側の発表に依拠している。ホールセールCBDCの検討なのか、証券決済のトリガー方式の延長なのか、単なる技術評価なのかで意味はまったく異なる。ECBが2026年9月21日に稼働予定のPontesとの関係も不明である。連銀自身またはECBからの公表を待つべき段階にある。
用語解説
- 許可型チェーン:参加者を審査したうえで運用する分散台帳。金融機関が自らの顧客情報や取引を扱う以上、誰でも参加できる公開型をそのまま使うことは難しく、実務ではこの形態が選ばれることが多い。ただし参加者が閉じるほど、外部との相互接続が課題になる。
- ゼロ知識証明:ある計算や状態遷移が正しく行われたことを、その中身を明かさずに証明する暗号技術。Prividiumはこれを用いて、取引の詳細を機関内部に残しつつ、台帳の正しさだけを外部チェーンに記録する構造をとっている。
- オープンソース化:ソフトウェアの原コードを公開し、誰でも利用・改変できるようにすること。金融機関にとっては、特定ベンダーへの依存を減らし、監査可能性を高める意味を持つ。一方、周辺の運用ツールが有償に残る場合、依存の解消は部分的にとどまる。
- 勘定系コネクタ:ブロックチェーン基盤と銀行の基幹システムを接続する部品。トークン化案件の実務負荷はここに集中しやすく、無償化されるかどうかが導入コストを大きく左右する。
- ホールセールCBDC:中央銀行が金融機関間の決済に用いるために発行するデジタル通貨。一般利用者向けのリテール型と区別され、証券決済との同時履行(DvP)を主な用途として各国で検討が進んでいる。
出典
- Ledger Insights「Matter Labs open sources Prividium core as Bundesbank tests it. Interoperability next」(2026年9月9日): https://www.ledgerinsights.com/matter-labs-open-sources-prividium-core-as-bundesbank-tests-it-interoperability-next/
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