NEWS英国実装①実証実験(PoC)2026-09-10

英銀行協会、トークン化を「基盤整備から実行へ」 制度は整ったが市場が動かないと自己診断

法制度も規制も整えた。それでも市場活動に転換できていない、と英国の業界団体が自ら認めた。制度が動かない国の症状は、日本のそれと重なる。

BY OFM Research · 5 MIN READ

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英国の銀行業界団体UK Financeは2026年9月8日、コンサルティング会社オリバー・ワイマンと共同で、ホールセール市場のトークン化に関する報告書を公表した。報告書は、英国が法的・規制的な土台を整備した一方で、それを市場活動に転換できていないと指摘する。最初の同種報告書から3年を経ての主題は「実行」である。報告書は、市場インフラが他国に定着すれば英国企業は他所で設計・統治・値決めされたレールの上で事業を行うことになると警告した。

何が起きたか

報告書は4つの優先課題を挙げる。第一に、個別の実証実験の寄せ集めではなく、市場の到達点・優先ユースケース・測定可能なマイルストーン・官民の常設協議の場を含む単一の長期ビジョンを持つこと。第二に、取引の資金サイドを資産サイドと同程度にデジタル化すること、すなわちデジタルマネー政策とトークン化政策を整合させること。第三に、政府が今年任命したホールセール・デジタル市場チャンピオンの権限を強化すること。第四に、優先領域に資源を集中することである。報告書に引用されたあるグローバルなセルサイド企業は、英国の位置づけを「中位。最下位でもないが、優勝もしていない」と表現した。報告書が賭け金として示すのは、金融・関連専門サービス業が生む年間約2,900億ポンド(約60兆3,688億円)の付加価値、英国の経済生産の11%、約250万人の雇用、年間1,100億ポンド超の納税である。円換算は1ポンド=208.17円(9月9日終値のポンドドル1.3535ドルとドル円153.80円から筆者算出)。

なぜ重要か

日本の状況と症状が重なる。電子記録移転有価証券の制度は2020年に整備され、デジタル社債の発行実績も積み上がったが、流通市場は立ち上がっていない。英国の診断は「制度が足りない」ではなく「実行が足りない」であり、処方箋が単一のビジョンと官民の常設協議体だという点は、日本の業界横断の取り組みを評価する物差しになる。資金サイドと資産サイドの整合という第二の課題も同様で、ステーブルコインや電子決済手段の議論とセキュリティトークンの議論を別々に進めている限り、24時間の同時決済は成立しない。自社の取り組みを点検する際、この2つの軸は使いやすい。

注視点

英国側では、チャンピオンが示した12カ月のプログラムが9つの作業部会で進み、2027年春にトークン化レポの実取引を目標としている。この日程が守られるかが実行力の試金石になる。2027年予定のデジタル・ギルト発行とデジタル証券サンドボックスの実績も判断材料だ。日本側では金融庁の2026事務年度金融行政方針が依然として未公表であり、同種のビジョンがどう示されるかが焦点となる。

用語解説

  • ホールセール市場:金融機関や機関投資家など、専門的な参加者同士が取引する市場。個人向けのリテール市場と対比される。トークン化の初期段階でホールセールが先行するのは、参加者が限定され、投資家保護の要求水準が相対的に低く設計しやすいためである。
  • デジタル・ギルト(DIGIT):英国政府が発行を計画する分散台帳ベースの国債。国債は市場の基準となる担保資産であり、これがトークン化されるかどうかが、レポ取引や担保管理のオンチェーン化の前提になる。
  • デジタル証券サンドボックス:英国が導入した、既存の証券決済規制の一部を適用除外して分散台帳による発行・取引・決済を試せる枠組み。EUのDLTパイロット制度に相当する仕組みだが、期間や規模の制約の置き方が異なる。
  • トークン化レポ:現金と証券を担保に交換する短期資金取引を、分散台帳上で行うもの。担保の受け渡しと資金の移動を同時に完結させられるため、日中の担保繰りの効率化が期待される一方、既存の三者間レポ実務との接続が課題になる。
  • ホールセール・デジタル市場チャンピオン:英財務省のホールセール・デジタル戦略について、民間側の実行を調整する役割として今年設置された役職。財務大臣に直接報告する。制度設計と実装の間を埋める調整役を公的に置いた点が特徴である。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-10

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