NEWSその他実装①実証実験(PoC)2026-09-10

スイスフラン建てステーブルコイン試験に市場インフラと国民的決済アプリが参加 9社体制へ

銀行だけの実験に、証券インフラの運営者と日常の決済アプリが加わった。発行を決めたわけではないと明記したうえでの拡大である。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

UBSは2026年9月8日、スイスフラン建てステーブルコイン「CHFD」のサンドボックスが試験段階に入り、市場インフラ運営者のSIXと決済アプリのTWINTが新たに参加したと発表した。参加者はUBS、ポストファイナンス、シグナム、ライファイゼン、2つの州立銀行、SIX、TWINT、スイス・ステーブルコインの9社となる。CHFDは1CHFD=1スイスフランを維持する設計で、6月末から技術的に稼働していた。試験は2026年末まで続く見込みで、UBSは結果を予断しない取り組みだと説明している。

何が起きたか

試験は、スイス・ステーブルコインの子会社であるCHFDインフラストルクトゥーアが運営するプラットフォーム上で行われる。検証対象は、金融機関間の自動取引、トークン化されたデジタル資産の決済、そしてプログラマブル決済の3領域である。UBSによれば、目的はスイスフラン建てステーブルコインがどこで付加価値を生みうるか、どのような課題があるか、将来的な展開のために技術・運用・規制面で何が必要かを把握することにあり、終了時には知見の概要が公表される。この取り組み自体は2026年4月に、SIXとTWINTを除く7者で立ち上げられていた。今回の発表は将来のスイスフラン建てステーブルコインの発行を決定したものではないと明示されており、準備金の証明書やトークンのコントラクト、流通量は公表されていない。一般利用者が売買・償還・移転できるトークンではない。

なぜ重要か

参加者の構成が特徴的である。SIXはスイスの証券取引所と保管振替機能を運営する事業者であり、TWINTはスイスで広く使われる決済アプリである。銀行だけの共同実験に、証券決済の側と日常決済の側が同時に加わった構図は、日本に置き換えると証券保管振替機構と主要コード決済事業者が銀行連合の実験に入るのに近い。トークン化資産の決済を検証項目に含めている点も重要で、資金側と証券側を同一の枠組みで扱おうとする姿勢が見える。日本では21社共同のステーブルコイン発行会社の設立が進むが、市場インフラ事業者や決済事業者をどこまで巻き込むかは、この事例と比較して評価できる。

注視点

第一に、スイスの法的枠組みが追いついていない点である。試験は法制度の整備に先行して進んでおり、規制上の要件は検証項目そのものになっている。第二に、2026年末の試験終了時に公表される知見の内容と、その後に発行の決定が行われるかどうか。UBSが「結果を予断しない」と明記している以上、発行に至らない可能性も織り込んでおく必要がある。第三に、プログラマブル決済の具体的なユースケースがどこまで実務に耐えるかである。

用語解説

  • サンドボックス:新しい商品や技術を、参加者や取引額を限定した安全な環境で試すための枠組み。実際の資金や資産を扱う点で机上の検証と異なるが、参加者が閉じているため本番稼働とは区別される。今回のCHFDも一般利用者は参加できない。
  • プログラマブル決済:一定の条件が満たされたときに自動的に実行される支払い。出荷が通関を通過した時点で代金を支払う、配当が確定した瞬間に分配する、といった処理を人手を介さず行う。条件判定と支払いを同じ台帳上に置けることが前提となる。
  • SIX:スイスの証券取引所、清算・保管振替機能、決済インフラを運営する事業者。日本でいえば取引所と証券保管振替機構の機能を併せ持つ位置づけに近い。トークン化証券の取引・決済基盤SDXも同社が運営している。
  • TWINT:スイスの主要銀行が共同で出資する決済アプリ。国内の日常決済で広く使われており、ステーブルコインの検証に加わることは、機関間決済だけでなく利用者接点の側からも検討が始まったことを意味する。
  • 1対1のペッグ:トークン1単位が法定通貨1単位の価値を維持する設計。維持の実効性は裏付け資産の質と償還の仕組みに依存するため、ペッグの宣言そのものではなく、準備金の構成と証明の枠組みを確認する必要がある。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-10

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週お届け

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。