ANALYSISグローバル2026-09-17

オプションのオンチェーン化は「取引所の置き換え」ではなく「清算機関の機能をコード化する試み」である

オプションは世界の上場デリバティブ取引高の約4分の3を占める主役だが、オンチェーン化ではパーペチュアル先物に大きく遅れている。本稿は、オプションがブロックチェーンに乗る意義はどこにあり、なぜ普及が遅れているのかを問う。結論を先に言えば、意義は「証拠金と決済を常時・自動で実行し、担保資産と同じ台帳で組成できる」点にあり、遅れの原因は技術よりも流動性の所在にある。

BY 石田陽之 · 10 MIN READ

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オプションは世界の上場デリバティブ取引高の約4分の3を占める主役だが、オンチェーン化ではパーペチュアル先物に大きく遅れている。本稿は、オプションがブロックチェーンに乗る意義はどこにあり、なぜ普及が遅れているのかを問う。結論を先に言えば、意義は「証拠金と決済を常時・自動で実行し、担保資産と同じ台帳で組成できる」点にあり、遅れの原因は技術よりも流動性の所在にある。

何が論点なのか

米国先物業協会(FIA)によれば、2025年の世界の上場デリバティブ取引高は1,192.9億枚で、うちオプションが886.5億枚を占めた。比率にすると約74%で、インドの規制強化で取引が急減する前の2024年は約86%だった。米国の清算機関OCCが2025年に清算したオプションは152億枚と前年比24.4%増え、Cboeでは当日満期(0DTE)のS&P500指数オプションが同指数オプション出来高の59%に達した。オプションは今や「短期・高頻度・個人参加」の商品へ性格を変えつつある。

暗号資産でも構図は同じだ。最大手のDeribitは2024年に1兆1,850億ドル(約185兆円)を売買し、2025年8月にCoinbaseが約29億ドル(約4,500億円)で買収を完了した。一方、オンチェーンで最大級のオプション取引所Deriveは、ビットコイン・オプション建玉約630億ドル(約9.8兆円)のうち0.8%にとどまる(2026年3月時点、FalconX算出)。パーペチュアル先物ではDEX(分散型取引所)が中央集権型に比肩する水準に達したのに、オプションでは桁が二つ違う。この非対称が本稿の出発点である。

オプションとは何か——「権利」だけを売買する取引

オプションは、ある資産を「決められた価格で、決められた日に(またはそれまでに)売買できる権利」の取引である。買う権利をコール、売る権利をプットと呼び、権利の値段をプレミアムという。

例えば、現在1万円の株を「3か月後に1万円で買える権利」を500円で買ったとする。株価が1万3,000円に上がれば権利を使って1万円で買えるので、差額3,000円からプレミアム500円を引いた2,500円が利益になる。逆に株価が8,000円に下がれば権利を使わなければよく、損失は500円で確定する。買い手は損失を限定しながら上昇の恩恵を受けられ、売り手はプレミアムを受け取る代わりに不利な値動きのリスクを負う。これは保険と同じ構造で、保有株の値下がりに備えるプットは「株価下落保険」にあたる。

ここで重要なのは、売り手が将来の支払いを確実に履行できるかという信用の問題である。伝統市場では、取引所の後ろに清算機関(CCP、取引の相手方となって決済を保証する機関)が立ち、証拠金を日々計算して徴収することでこれを解決している。

オンチェーン化で変わるのは「清算機関の仕事」である

オンチェーン化の本質は、このCCPの機能をスマートコントラクト(自動執行されるプログラム)で代替する点にあると考えられる。証拠金の計算、不足時の強制決済、満期時の差金決済がコードとして24時間365日動き、ルールは誰でも検証できる。担保となるステーブルコインやトークン化資産と同じ台帳上にあるため、担保差し入れと決済が一体化し、営業時間や資金移動の締め時間に縛られない。

もう一つの変化は組成可能性である。オプションをトークン化すれば、他のプロトコルがそれを部品として取り込み、カバードコール(保有資産にコールを売ってプレミアムを得る戦略)を自動運用する商品や、利回り商品に下値保護を組み込んだ仕組債的な商品を、発行体を介さずに組み立てられる。伝統市場では証券会社・取引所・CCP・カストディアンに分散していた機能が一つの実行環境に畳み込まれる。これがパラダイムシフトの中身である。

実需の兆しもある。FalconXによれば、2025年10月10日の暗号資産急落時に中央集権型取引所で自動デレバレッジ(ADL、清算不能時に勝っている側の建玉を強制的に削る措置)への懸念や障害が生じ、ルールが透明な非カストディ型の取引所へ資金が移ったとされる。仕組みの透明性が、平時ではなく危機時に価値を持つことを示す事例と言える。

パーペチュアルは成功し、オプションが遅れた技術的理由

オプションはパーペチュアルより本質的にオンチェーン化が難しい。第一に、商品数が桁違いに多い。原資産ごとに満期と権利行使価格の組み合わせだけ銘柄が生まれ、流動性が分散する。第二に、価格付けに変動率(ボラティリティ)の推定が必要で、値付けを担うマーケットメーカーの高頻度な気配更新が欠かせない。第三に、証拠金計算が非線形で、ポートフォリオ全体を評価しなければ資本効率が上がらない。

初期のLyraはAMM(自動で価格を提示するプール型の仕組み)で価格を付けたが、流動性提供者の損失や価格の歪み、数百%の過剰担保という資本効率の悪さに直面した。学術研究でも、オンチェーンのインプライド・ボラティリティ(価格から逆算した想定変動率)が中央集権型より高く、多層的な手数料構造とAMMの独占的な値付けが一因と指摘されている。つまり利用者は割高な保険料を払っていた。

Deriveはこれに対し、専用チェーンへの移行、板取引(CLOB)への転換、USDC担保への切り替え、大口向けの相対見積もり(RFQ)の導入で応えた。2026年3月には週間オプション出来高が過去最高の2億9,400万ドル(約459億円)を記録し、1日の出来高はDeribitの約8%に達した。技術的な制約は解け始めていると見てよい。

反論はどこにあるか

最も強い反論は「流動性はオンチェーンではなく規制市場に向かっている」というものだ。米国上場のビットコイン現物ETF「IBIT」のオプション建玉は、2025年9月(Bloomberg)と2026年4月(CoinDesk)の報道でDeribitを上回ったとされる。機関投資家は既存の証券口座・CCP・会計処理のままビットコインのリスクを取引でき、オンチェーンの透明性にコストを払う理由がない。この見立てに立てば、オンチェーン・オプションは規制の届かない層向けのニッチにとどまる。

加えて、スマートコントラクトの脆弱性、価格を外部から取り込むオラクルの操作リスク、極端な局面での連鎖清算は、CCPの損失補填の仕組み(清算基金や会員の追加負担)に比べて歴史が浅い。Deriveも自社トークンの買い戻しと取引報酬に支えられており、流動性がインセンティブ頼みでないかは検証途上である。

それでも筆者は、反論は「現時点の流動性の所在」を説明しても「将来の基盤の所在」は説明しないと考える。株式や国債、MMFのトークン化が進めば、その上に乗るヘッジ手段も同じ台帳にあるほうが担保移動と決済の摩擦が小さい。IBITの成功は、需要が存在することの証明であって、清算インフラが既存のままでよいことの証明ではない。オプションのオンチェーン化は、トークン化資産の普及に遅れて立ち上がる「ボラティリティの層」として進むと見るのが妥当ではないか。

日本の金融機関にとっての意味

第一に、制度の前提が変わる。2026年7月15日に成立した改正金融商品取引法で、暗号資産の規制は資金決済法から金商法へ移管され、インサイダー取引規制も新設される。暗号資産を原資産とするデリバティブや関連ETFを、株式と同じ枠組みで議論する土台ができた。商品設計とリスク管理の検討を今から始める価値がある。

第二に、国内のオプション市場自体が拡大している。大阪取引所の有価証券オプションは2025年に343万単位と過去最高を記録した。トークン化証券を扱う事業者は、その上に権利取引を載せる設計(担保・決済・時価評価)を先回りして検討できる。

第三に、評価軸を「出来高」ではなく「清算機能の置き換え可能性」に置くことである。オンチェーン・オプションを検討する際は、証拠金モデル、清算不能時の損失分担、オラクルの冗長性という三点を、CCPのリスク管理基準と並べて比較することが、経営判断の実質的な材料になる。

出典


本記事は公開情報に基づく分析であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-17

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WRITTEN BY
石田陽之

石田陽之

編集長

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

@akihisa_ishida →

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