NEWSUAE実装④本番稼働(全面)2026-09-09

スタンダードチャータード、UAEで機関投資家向けの現物暗号資産取引を開始──カストディに執行を重ねる

保管を担ってきた銀行が、同じ屋根の下に売買の執行を並べた。中東で先に成立したこの組み合わせが、日本の銀行にとっての論点になる。

BY OFM Research · 5 MIN READ

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スタンダードチャータードは2026年9月3日、アラブ首長国連邦(UAE)で機関投資家向けのビットコインとイーサの現物取引を開始したと発表した。提供主体はドバイ国際金融センター(DIFC)に置く拠点で、ドバイ金融サービス機構(DFSA)の規制を受ける。同行は、UAEでこの機能を提供する初のグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)だとしている。2024年9月に開始した同国でのカストディに執行を加える形で、顧客は自ら選んだカストディアンで決済できる。取扱残高や顧客数は公表されていない。

何が起きたか

サービスは同行の既存プラットフォームに統合され、顧客は使い慣れた外国為替の取引画面から暗号資産の売買にアクセスする。決済は顧客が選択したカストディアンとの間で行われ、同行自身のデジタル資産カストディを使うこともできる。同行は2025年7月に英国拠点で機関投資家向けのデリバラブル現物取引を開始しており、UAEはこれに続く展開にあたる。

DFSAは2022年にDIFC域内でクリプトトークンの規制枠組みを導入し、2025年10月に公表した改定が2026年1月に施行されたと報じられている。改定では、サービス提供に先立って対象トークンの適格性を認可事業者自身が評価することが求められ、市場の健全性、投資家保護、金融犯罪対策、カストディ、業務継続の各面で要件が引き上げられた。UAE現地の政府系通信社が伝えた同行UAE・中東・パキスタン担当CEOの説明によれば、UAEが機関投資家の参加を支える明確なデジタル資産規制の枠組みを整えたことが今回の判断の前提になっている。

なぜ重要か

日本では銀行法の業務範囲規制のもとで、銀行本体が暗号資産の売買を業として手がけることは想定されておらず、暗号資産交換業はグループ会社が担う構図が一般的である。今回の事例が示すのは、規制が銀行本体に執行を認めた場合に何が起きるかである。同一の金融機関が保管と執行の双方を提供すれば、顧客にとっては口座開設と与信審査が一本化され、資金の出入りも銀行口座で完結する。

同時に、保管と執行を同じ屋根の下に置くことは利益相反管理と顧客資産の分別管理の論点を生む。同行が顧客に別のカストディアンを選ぶ余地を残している点は、この論点への一つの回答とみられる。日本の銀行・信託銀行がカストディ側から関与を深める場合にも、同じ設計判断が問われる。

注視点

同行の商品ページによれば、非デリバラブル・フォワードの提供が2026年下期に予定されているとされ、現物からデリバティブへの拡張が次の段階になる。UAEでは連邦の中央銀行、DIFCのDFSA、アブダビのADGM、ドバイのVARAが重層的に規制を敷いており、どの免許でどの業務を行うかの整理が事業者側に求められる。

進捗段階

実装トラック④(本番稼働)。適格な機関投資家顧客に対する商品として提供が開始されており、実証や限定的な試行ではない。

用語解説

  • G-SIB(グローバルなシステム上重要な銀行):破綻した場合に国際金融システムへ与える影響が大きいとして、金融安定理事会が毎年指定する銀行群。追加的な資本の積み増しや再建・破綻処理計画の策定を求められる。この区分の銀行が暗号資産の現物取引に踏み込むことは、規制当局側の許容範囲を示す指標として受け止められる。
  • DIFCとDFSA:ドバイ国際金融センターは独自の法体系を持つ金融フリーゾーンで、ドバイ金融サービス機構がその域内の金融事業者を監督する。UAE本土の規制とは別建てで、国際金融機関が域内向けの業務を行う際の受け皿になっている。
  • デリバラブル現物取引:契約の履行として暗号資産そのものを引き渡す取引。差金決済で損益だけをやり取りする形態と異なり、顧客は実際に資産を保有することになるため、保管と移転の手当てが不可欠になる。
  • カストディ:顧客の資産を預かり、保管と記録を担う業務。暗号資産では秘密鍵の管理がその実体になるため、伝統的な証券のカストディとは技術面の要求が大きく異なる。銀行が担う場合、既存の分別管理や内部統制の枠組みを適用しやすい点が利点とされる。
  • VARA:ドバイの本土側で仮想資産事業者を監督する当局。DIFC内のDFSAとは別の免許体系であり、同じ銀行グループでも拠点と免許によって行える業務が異なる。今回の現物取引はDFSAの監督下にある拠点による提供である。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-09

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