NEWS日本制度成立・確定(未施行)2026-07-21

政府の骨太方針2026、「オンチェーン金融」を初めて明記——定義は脚注に、実体は同日決定の金融戦略に

政府は7月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太方針2026)に、「オンチェーン金融の推進」を初めて明記し、脚注でその定義を示した。予算編成と税制改正の起点となる文書に位置づけられたことで、これまで実証実験の集合体だった領域が、来年度以降の予算措置の対象となる政策項目へと格上げされた。

BY OFM Research · 7 MIN READ

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政府は7月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太方針2026)に、「オンチェーン金融の推進」を初めて明記し、脚注でその定義を示した。予算編成と税制改正の起点となる文書に位置づけられたことで、これまで実証実験の集合体だった領域が、来年度以降の予算措置の対象となる政策項目へと格上げされた。

何が起きたか

記載は第2章「成長基盤の強化」の「成長を支える資金供給の促進」に置かれている。「資産運用立国」の取組を発展させる文脈で、アセットオーナーの機能向上、家計の安定的な資産形成促進と並列に「オンチェーン金融の推進を図る」と記された。単独のテクノロジー政策ではなく、インベストメントチェーン強化策の一項目として組み込まれた形である。

定義は本文ではなく脚注33に置かれた。ブロックチェーン上で、トークン化預金やステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流等のデータ管理ともプログラムによって連動・一体化される金融、というのがその内容である。想定される活用場面として、製造業の受発注・納品に関するデータ管理、貿易実務における書類管理、金融分野における証券決済が挙げられている。決済と業務データの結合に定義の重心があり、暗号資産の投資対象としての側面には言及がない。

具体策は、同日に内閣官房が策定・公表した「成長投資を促進するための金融戦略」(成長投資金融戦略)に委ねられている。同戦略は「4-1. AI時代を見据えたオンチェーン金融イニシアティブ」という独立した節を設け、AIエージェントが自律的に商取引を行う時代の決済に必要な要素として、24時間365日の連続稼働、商流・物流とつながるプログラマビリティ、決済基盤としての安定性・安全性の3点を挙げた。そのうえで、我が国の決済基盤がこれに対応できなければ海外決済基盤への依存が強まり、競争力低下と経済安全保障上のリスクを高めるおそれがある、との問題意識を明示している。あわせて、オンチェーン金融と既存の金融インフラ(オフチェーン金融)との「ベストミックス」を鍵と位置づけており、置換ではなく併存を前提としている点は読み落とすべきでない。

実施体制として、金融庁が関係省庁とともに「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を2026年夏に立ち上げ、2027年初に中間整理をまとめるとされた。同戦略は、民間の資金決済全体の在り方について金融庁が主導的役割を果たすべく、必要な組織拡充を検討するとも記している。

関係省庁の具体的な宿題も列挙された。日本銀行は日銀当座預金のオンチェーン対応について年内に論点整理と実現に向けた道筋の検討状況を取りまとめる。財務省は国債等のトークン化対応と、元利払いをオンチェーン決済で行うことの検討を進める。デジタル庁はステーブルコインやトークン化預金の公金給付への活用可能性を検討し、内閣官房デジタル行財政改革会議事務局はステーブルコインの金銭に準じた利用可能性について諸法令の取扱いを整理する。業界団体には、トークン化預金等が物流・商流とデータ連携する時代の銀行業務の在り方を検討することが求められた。

制度面では、ステーブルコインの裏付け資産の在り方を含む制度的枠組みの諸論点をメリット・デメリットの両面から点検すること、DEXを含むDeFiやウォレット提供業者に関するリスク低減策を各国動向を注視しつつ検討すること、様々な資産のトークン化に関する制度の在り方を検討することが並んだ。技術面では、ブロックチェーンに対する量子コンピュータによる危殆化リスクの把握と代替手段の検討も明記されている。

なお成長投資金融戦略は、骨太方針2026が創設を定めた『「強く豊かな日本」投資枠』の対象について、「金融(オンチェーン決済システムに関するものを含む)」などの分野横断的課題への取組が含まれると記している。オンチェーン決済インフラが、要求上限(シーリング)を設けない投資枠の対象になり得ることが文書上で確認できる。

なぜ重要か

第一に、参照すべき政府文書が変わる。これまで国内金融機関のオンチェーン関連の取組は、資金決済法・金融商品取引法の改正動向と金融行政方針を主な手がかりに進められてきた。骨太方針への明記は、これに予算編成という別系統の根拠が加わったことを意味する。各府省庁の概算要求は本方針を踏まえて行われるため、2027年度予算編成の過程で、どの省庁がどの実装に予算を付けるかが可視化される。自社の企画部門が政策動向を追う際、金融庁の審議会だけを見ていれば足りる段階ではなくなった。

第二に、定義が主戦場を規定している。脚注の定義は決済と商流・物流データの一体化に置かれており、想定例も受発注管理、貿易書類、証券決済である。つまり当面の実務インパクトは、リテールの投資商品ではなく、法人決済、貿易金融、証券決済の領域に集中する。銀行であれば法人取引部門とトランザクションバンキング、証券・信託であれば決済・カストディ部門が当事者となる。デジタル資産を新規事業部門の担当と整理してきた組織では、所管の見直しが必要になる可能性がある。

第三に、日銀当座預金のオンチェーン対応が年内の検討対象に入った点は、決済実務の前提に関わる。トークン化預金の銀行間決済をどの階層で最終化するかは、資金決済の最終性、日中流動性の管理、既存の全銀システムやRTGSとの役割分担に直結する。ここでの整理次第で、銀行が自行トークン化預金の設計に着手できるタイミングが決まる。

第四に、国債のトークン化とオンチェーンでの元利払いの検討は、証券会社・信託銀行・運用会社にとって無視できない。国債は担保・運用の基礎資産であり、その受渡しがオンチェーンで完結し得るようになれば、レポ取引や担保管理のオペレーションが影響を受ける。現時点では検討段階にとどまるが、中期的な業務設計の前提条件として認識しておく必要がある。

第五に、ステーブルコインの裏付け資産の在り方が点検対象とされたことは、発行体の経済性に関わる論点である。現行の信託型・資金移動業型それぞれの枠組みで、準備資産の運用可能範囲がどう扱われるかは、円建てステーブルコインの発行採算を左右する。銀行・信託が発行に関与する場合の収益設計にも波及する。

注視点

第一に、フォーラムの立ち上げ時期である。成長投資金融戦略は「2026年夏に立ち上げる」としているが、2026年8月19日時点で金融庁の公表資料に設置の告知は確認できない。委員構成と論点設定は、その後の制度設計の方向を大きく規定するため、公表を待ちたい。

第二に、期限の設定である。成長投資金融戦略は、施策の具体化が必要なものについて、特段の記載があるものを除き2026年度末までを目途に結論を得るとしている。日銀の取りまとめは年内、フォーラムの中間整理は2027年初であり、2026年度末に向けて論点が集中する構図となっている。

第三に、組織面の初動はすでに始まっている。金融庁は8月5日に組織再編を公表し、8月7日に施行した。総合政策局と監督局を「銀行・証券監督局」「資産運用・保険監督局」に再編するとともに、新たに資金決済課と暗号資産・ステーブルコイン課を設置している。成長投資金融戦略が記した「必要な組織拡充」が、戦略公表から2週間余りで実行に移された形であり、当局の体制整備の速度としては速い部類に入る。

第四に、法制の側面では、2026年4月10日に提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」が7月15日に成立している。骨太方針の政策方針と法制度の整備が並行して進む局面にあり、施行に向けた政令・内閣府令の内容が今後の実務論点となる。

第五に、投資枠の規模である。『「強く豊かな日本」投資枠』はシーリングを設けない枠組みとされる一方、規模は「財政の持続可能性を実現しながら必要十分な規模を確保する」との記述にとどまり、オンチェーン決済システムにいくら配分されるかは示されていない。2027年度予算の概算要求と編成過程で明らかになるとみられる。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-07-21

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OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

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