SBI新生信託銀行とSBI VCトレードは2026年9月7日、信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の裏付けとなる信託財産のうち10億円について、短期国債による運用を開始したと発表した。2026年6月1日に施行された改正資金決済法および関係法令により、発行額の50%を上限に、3ヵ月を超えない国債証券や定期預金での運用が認められたことを受けた対応である。同日時点のJPYSC発行残高は約201億円相当、JPYSCレンディングの申込分は約69億円相当で、合計は約270億円相当となる。
何が起きたか
JPYSCは、日本円と1対1で連動する第3号電子決済手段である。SBI新生信託銀行が発行者として信託財産の管理・運用を担い、SBI VCトレードが発行委託者兼電子決済手段等取引業者として発行・流通を推進する。2026年6月24日にSBI VCトレードの口座内限定で先行提供が始まった。
これまで、信託型ステーブルコインの発行見合い資金は原則として普通預金等の要求払預貯金で管理することが求められていた。6月1日施行の改正資金決済法と関係法令により、一定の要件のもと、発行額の50%を上限として3ヵ月を超えない国債証券や定期預金による運用が可能になった。今回はこの制度を活用した実装である。
両社は、償還に必要な流動性を確保しながら短期国債で裏付け資産を管理・運用するとし、今後は国内外の送金・決済、オンチェーン外国為替市場、RWA・トークン化資産の決済への展開を目指すとしている。運用に回した10億円は発行残高約201億円の約5%にあたる(本記事による試算)。
なぜ重要か
ステーブルコインの発行体にとって、裏付け資産の運用収益は事実上唯一の収益源である。要求払預貯金しか使えない状態では、発行残高を積んでも採算が立ちにくい。短期国債が使えるようになったことは、発行体のビジネスモデルが成立するかどうかの分岐点にあたる。
同時に、これは信託銀行にとってALMの論点でもある。償還請求は予告なく来るため、運用資産の残存期間と流動性の設計が償還履行能力を直接左右する。3ヵ月以内という制約は流動性リスクを抑える設計だが、残高が伸びるほど償還の集中に対する耐性が問われる。銀行の資金繰り管理と同種の検証を、発行体と受託者が備える必要がある。
注視点
50%の上限に対して実際にどこまで寄せるかが最初の論点になる。今回は残高の約5%にとどまり、償還流動性を優先した保守的な出発点とみられる。
JPYSCが現在もSBI VCトレードの口座内利用に限られ、外部ウォレットへの出庫ができない点も残る。パブリックチェーン上での流通に移行すれば、償還請求のパターンは読みにくくなり、運用比率の設計に跳ね返る。
用語解説
- 第3号電子決済手段:資金決済法上の電子決済手段の類型のひとつで、特定信託受益権として発行されるもの。信託銀行等が受託者兼発行者となり、裏付け資産が信託財産として倒産隔離される。
- 発行委託者:信託型ステーブルコインのスキームで、信託銀行(受託者兼発行者)に金銭を信託し、信託財産の運用指図を行う立場。JPYSCではSBI VCトレードがこれを担う。
- 短期国債:ここでは、償還までの残存期間が3ヵ月を超えない国債証券を指す。改正資金決済法の関係法令が、信託型ステーブルコインの裏付け資産の運用先として認めた範囲。
- ALM(資産負債管理):資産と負債の金利・期間・流動性の構造を一体で管理する手法。ステーブルコインでは、償還請求(負債)に対する裏付け資産(資産)の流動性確保がこれにあたる。
出典
- SBI VCトレード「国内初※の信託型円建てステーブルコイン『JPYSC』、裏付け資産の一部で日本国債の運用を開始」(2026年9月7日): https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000059421.html
- 金融庁「金融庁の令和9年度税制改正要望について」(2026年8月31日): https://www.fsa.go.jp/news/r8/sonota/20260831.html
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。