米SECは2026年9月17日、トークン化NMS株を取引する「トークン化証券venue(TSV)」を1934年証券取引所法の「取引所」定義から一時的・条件付きで適用除外する命令を発出した。パーミッションド型の自動マーケットメイカー(AMM)と流動性プールを用いた取引が対象で、自己資金で流動性を供給する参加者にはディーラー定義からの免除も付与される。免除は公表から5年で失効し、SECはパブリックコメントを募集している。上院で包括的な市場構造法案が前々日に頓挫した直後の措置である。
何が起きたか
命令が定めるTSVとは、パーミッションド参加者向けのAMM流動性プールを提供し、そのアクセス基準を設定することで、トークン化NMS株の買い手と売り手を結びつける場を指す。
取引所定義からの免除には条件が付く。取引できる銘柄数と出来高に上限が設けられること。取り扱うトークン化NMS株が同等クラスの伝統的なNMS株と同じ権利・特権を保有者に与えることを、TSVが検証すること。関連会社以外の第三者がトークン化した銘柄を扱う場合、原株の発行体に書面で通知し、異議を述べる機会を与えること。スマートコントラクトは監査可能かつ公開され、パブリックかつパーミッションレスな分散型台帳上に配置されること。原株の主要上場取引所で売買が停止された場合、TSVも同時に停止すること。
加えて、AMM流動性プールで自己資金によりトークン化NMS株の流動性を供給する者には、ディーラー定義からの条件付き免除が与えられる。アトキンス委員長は、恒久的なルール整備を検討する間の暫定措置だと位置づけている。
なぜ重要か
条件表の中身が、日本の証券・信託・取引所にとっての読みどころである。権利の同一性を検証させ、発行体に異議権を与えた点は、トークン化株式を発行体の関与しない合成商品から切り離す設計である。日本で株式のトークン化を議論する際も、株主名簿と振替口座簿を誰が持つのか、発行体の同意をどう取るのかが最初の関門になる。
台帳の扱いも示唆的だ。参加者はパーミッションド、スマートコントラクトが載る台帳はパーミッションレスという組み合わせを、当局が条件として明示した。検証可能性は公開台帳で担保し、参加者適格はアプリケーション層で絞る。日本の金融機関が公開チェーンを使う際の型として参考になる。
注視点
5年で失効する暫定措置である点は軽視できない。同種の枠組みを前提に商品設計すれば、恒久ルール化の成否がそのまま事業計画のリスクになる。銘柄数と出来高の上限の水準も採算を左右する。
日本でも2026事務年度金融行政方針が、資産のトークン化を見据えた証券決済の高度化を掲げている。米国が既存法の適用除外で先に動いたことの影響が、次の論点になる。
用語解説
- NMS株:米国のNational Market System(全国市場システム)の対象となる上場株式。証券取引所法に基づく統一的な取引・報告ルールが適用される。
- AMM(自動マーケットメイカー):注文板ではなく、流動性プールの残高と数式によって価格を決定する取引の仕組み。今回の命令は、参加者を限定したパーミッションド型を前提としている。
- 適用除外命令(exemptive order):SECが証券取引所法36条などに基づき、公益と投資者保護に反しないと判断した場合に、法令上の義務を一時的または条件付きで免除する命令。法改正を伴わない行政措置である。
- CLARITY法案:デジタル資産の監督権限をSECとCFTCに配分する米国の包括的な市場構造法案。2026年9月15日の上院の手続き投票で必要票数に届かず、年内の成立が困難になった。
出典
- U.S. Securities and Exchange Commission, Press Release 2026-90 "SEC Issues 'Innovation Exemption' to Facilitate the Trading of Tokenized NMS Stock and Request for Comment"(2026年9月17日): https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2026-90-sec-issues-innovation-exemption-facilitate-trading-tokenized-nms-stock-request-comment
- U.S. Securities and Exchange Commission, Order(2026年9月): https://www.sec.gov/rules-regulations/2026/09/4-927
- 金融庁「2026事務年度金融行政方針」(2026年9月15日): https://www.fsa.go.jp/news/r8/202609/strategic_priorities_2026_main.pdf
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