米EDX Marketsは2026年8月25日、Figure傘下Figure Certificate Companyが発行する利回り付きデジタル証券「YLDS」を、証拠金資産および自社のトレジャリー資産として採用したと発表した。EDXはシタデル・セキュリティーズやフィデリティなどが出資する機関投資家専用の取引・清算基盤である。YLDSはSEC登録の額面証券で、2025年10月1日時点でSOFR▲0.35%の利率を付す。日本の証券会社にとっては証拠金の適格資産設計に重なる論点である。
何が起きたか
EDXのリリースによれば、機関投資家の顧客はYLDSをFCCから直接、または流通市場で取得し、取引・清算のオペレーション全般で証拠金として利用できる。EDX自身もバランスシート上のトレジャリー資産として保有するとしている。掛け目や適格条件は公表されていない。
YLDSは2025年2月に提供が始まった商品で、FigureのSEC提出書類によれば、Provenanceブロックチェーン上で発行される無担保の額面証券であり、FCCの資産で裏付けられる。裏付けは現金および現金同等物で、プライムMMFに近い構成とされる。24時間365日取引できるが、法定通貨への出金は償還が現金決済された後の米国銀行営業時間内に限られる。
なお、SECへの登録は同社および商品をSECが承認したことを意味せず、FDIC保険の対象でも銀行保証の対象でもない旨がリリースに明記されている。
なぜ重要か
米国のGENIUS法は、ステーブルコインの発行体が保有者に利息を払うことを禁じている。その結果、機関投資家が証拠金として置く資産には、利回りを得られないUSDCや米ドルか、利回りは得られるが規制上の位置づけが異なる商品か、という選択が生じる。YLDSは後者を「登録証券」という形で埋めにきたものであり、付利禁止という設計が需要をどこへ押し出すかを示す事例といえる。
日本の証券会社・取引所にとっては、証拠金の適格資産をどう設計するかという既存の論点に直結する。重要なのは利回りが付くこと自体ではなく、その資産が値下がりしうる証券であることだ。リリースにも価値が減少しうる旨が記されており、掛け目の設定と値洗いの頻度が設計事項になる。同じ問いは、円建てステーブルコインを証拠金に使う場面でも形を変えて現れる。
注視点
掛け目・適格条件・値洗いの取扱いが開示されるか。他の機関投資家向け取引所が追随するか。トークン化MMFでは2025年6月以降にBUIDLを証拠金採用する事例が出ており、この動きが利回り付き登録証券にも広がるかが焦点になる。そして日本で同種の商品が特定信託受益権や社債といった既存の器で成立しうるかである。
進捗段階
③ 本番稼働(限定領域)(実装系)。実際に証拠金として利用可能な状態が提供され、EDX自身もバランスシートに計上している点で実証段階を超えている。ただし対象はEDXの機関投資家顧客に限られ、証拠金資産としての標準的な選択肢になったわけではないため④には至らない。
用語解説
- 額面証券(face-amount certificate):投資会社法上の類型の一つで、発行体が一定の額面金額の支払いを約束する証券。発行体の資産で裏付けられ、投資信託のような持分ではなく債務に近い性格を持つ。YLDSはこの類型で登録されている。
- SOFR:米国の翌日物担保付調達金利。米国債を担保とする実取引に基づいて算出され、LIBORの後継として使われる。YLDSはこのSOFRから0.35%を差し引いた利率を付す設計とされている。
- 証拠金(コラテラル):取引の履行を担保するために差し入れる資産。従来は現金や国債が中心で、値動きのある資産を用いる場合は時価から一定率を差し引く「掛け目」を設定する。何を適格資産とするかは、取引所・清算機関の設計事項である。
- GENIUS法の付利禁止:米国のステーブルコイン法制で、発行体が保有者に利息やそれに類する報酬を支払うことを禁じる規定。保有者から見れば裏付資産の運用収益は発行体に帰属し、自らはリターンを得られない。この制約が、利回りを求める資金を別の商品類型へ押し出す構造をつくっている。
- トレジャリー資産:企業が自社の余資を置くために保有する資産。ここでは、EDXがYLDSを顧客向けの担保として認めるだけでなく、自社の資金運用先としても採用したことを指す。自ら保有することで商品への信認を示す意図があるとみられる。
出典
- EDX Markets「EDX Markets Integrates Figure's YLDS as Collateral and Treasury Asset」(PR Newswire、2026年8月25日): https://www.prnewswire.com/news-releases/edx-markets-integrates-figures-ylds-as-collateral-and-treasury-asset-302859058.html
- Figure Technology Solutions, Inc.「Form S-1/A」(YLDSの設計・利率に関する記載、2026年): https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2064124/000162828026007807/figr-20260212.htm
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。