BlackRockが8月4日、欧州のICSマネー・マーケット・ファンド(対象6ファンドの合計残高は2026年6月30日時点で3,110億ドル、1ドル=159円換算で約49兆円)にオンチェーン・シェアクラスを設定した。新ファンドの組成ではなく、既存の規制対象UCITSファンドへの「シェアクラス追加」という設計が最大の特徴である。
何が起きたか
対象は欧州のBlackRock Institutional Cash Series(ICS)マネー・マーケット・ファンド(MMF)である。設定されたのは12のシェアクラスで、ユーロ・ポンド・米ドル建てのガバメント/リクイディティ各ファンドについて、分配型と再投資型が用意された。トークンはEthereum上で発行され、JPモルガンのブロックチェーン部門Kinexysがミントとバーンを担う。
ここで重要なのは、これが新ファンドの組成ではなく、既存の規制対象UCITSファンドへのシェアクラス追加だという点である。1トークンは既存ファンドの1持分に対応し、正式な株主名簿は従来どおりトランスファーエージェントが維持する。Kinexysはオンチェーンの動きと伝統的な株主名簿をつなぐ変換層として機能する。
承認された投資家のウォレット間であれば、スマートコントラクトを通じて24時間365日の直接移転が可能になる。想定用途としてBlackRockは、企業財務・流動性管理、デジタル担保管理、銀行・ウェルス・デジタル販売チャネルでの提供、他のトークン化エコシステムとの統合を挙げている。提供は15の市場で、プロ投資家・適格投資家向けである。
なぜ重要か
既存ファンドにクラスを足す設計は、UCITSの枠組みで再現しやすい。1つのファンドが1つの資産プールと投資戦略を持ち、その上に通貨や分配方針の異なる複数クラスが乗るという既存構造に、「保有形態」という差分を1つ加えているためである。
日本の運用会社が投信のトークン化を検討する場合も、新商品の組成より既存商品への追加クラスのほうが、目論見書・約款・受託機関の対応範囲を絞れる可能性がある。証券会社や信託銀行にとっては、トークン化MMFがデリバティブや貸借取引の担保として使われ始めた場合の受入れ体制が論点になる。
注視点
3,110億ドルは対象ファンド群全体の残高であり、オンチェーンに移る額ではない。BlackRock自身も当初は小さく始まると説明しており、実際のオンチェーン残高が開示されるかが今後の判断材料となる。
また、株主名簿がオフチェーンに残る構成では、トランスファーエージェントが承認ウォレットを管理し凍結・再発行の権限を持つ。「オンチェーンで自由に動く資産」とは性質が異なる点に留意が要る。
出典
- BlackRock「BlackRock Launches Tokenised UCITS MMF Share Classes in Europe」(2026年8月4日): https://www.blackrock.com/cash/en-es/press-release-t4
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。