ブラックロックは、ステーブルコインの準備資産としての利用を想定したトークン化MMFを2本立ち上げた。ステーブルコインをめぐる競争軸が、発行そのものから「裏付け資産を誰が運用し、権利記録の事務を誰が担うか」へ広がりつつあることを示す動きである。
何が起きたか
投入されたのは、既存MMFにトークン化受益証券クラスを追加したBSTBLと、新規設定のBRSRVの2本。BSTBLはイーサリアム上で発行され、承認された投資家のウォレット間で移転できる。移転代理人(受益者名簿の管理と権利移転の記録を担う事務受託者)とトークン化基盤の提供はBNYが務める。BRSRVはデジタル資産を主戦場とする機関投資家向けの新設ファンドで、配当の日次再投資と複数チェーン対応を備え、同じ役割をSecuritizeが担う。
両ファンドとも現金・短期米国債・米国債を担保とする翌日物レポで運用し、GENIUS法上の「適格準備資産」に該当することを意図した設計とされる。同社によれば、米国のMMF残高はSEC統計で8.4兆ドル超(約1,336兆円、2026年5月時点)、同社のキャッシュ運用部門の残高は約1兆730億ドル(約170兆円、2026年3月時点)。いずれも1ドル=159円で換算した(2026年8月18日時点)。
なぜ重要か
注目すべきは、同じ狙いの商品を2つの事務基盤で並走させた点である。既存ファンドのクラス追加は伝統的な移転代理人であるBNYが、デジタルネイティブ向けの新設ファンドは専業事業者のSecuritizeが担う。トークン化の付加価値が発行行為そのものではなく、権利記録と移転の事務をどの主体がどの水準で担えるかに移りつつあることの表れといえる。日本では信託銀行と証券代行がこの位置にあたり、同じ役割競争が起きうる領域である。
もう一点は準備資産の設計自由度である。日本の電子決済手段は、裏付け資産が要求払預金や国債などに実質的に限定されており、トークン化MMFを準備資産に充てる構成は現行法では取りにくい。制度差がそのまま商品設計の差として現れる論点となる。
注視点
適格準備資産の細目はOCCおよび財務省の実施規則が固まっておらず、ブラックロック自身も、GENIUS法の解釈が未確定であり規則次第で保有資産や運用実務の調整を迫られうる旨をリスクとして開示している。トークン化MMFが実際に準備資産として認められるかは、規則の最終化を待つ必要がある。日本側では、円建てステーブルコインの裏付け資産の範囲をめぐる議論が同じ論点として浮上するかが焦点となる。
出典
- BlackRock「BlackRock Expands Tokenized Cash Platform with BSTBL OnChain Shares and BRSRV」(2026年8月3日、Business Wire配信): https://www.businesswire.com/news/home/20260803468591/en/
- 米国SEC「Money Market Fund Statistics」: https://www.sec.gov/data-research/statistics-data-visualizations/money-market-fund-statistics
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。