英FCAとイングランド銀行は2026年9月14日、5月に実施したトークン化の意見募集の結果(FS26/1)を公表した。寄せられた123件の回答の多くが、担保の移動性を最大の利点に挙げている。日本の金融機関にとっては、トークン化の効用を決済の速さではなく担保効率で測り、倒産法上の保護とあわせて設計すべきことを示す材料になる。一方、当局は決済ファイナリティの扱いを明言しなかった。年内に公表予定の工程表で、日付と論点がどこまで具体化されるかが焦点である。
何が起きたか
5月の意見募集には、123件の回答が寄せられた。最も多く挙がった用途は担保である。主に運用会社から、トークン化MMFを解約せずにそのまま担保として差し入れる案が示された。これに対し、一般によく語られる24時間取引やアトミック決済は、担保に関わる文脈を除けばほとんど言及されなかった。
当局は、短中期の主な便益は担保の移動性にあるとの見方に同意し、次の方針を示した。
- ステーブルコインのようなトークン化資産を、英中銀の資金供給オペ(DIGITを含む)の適格担保とするかを検討する
- 中央清算機関(CCP)によるトークン化担保の受け入れについて、年内に監督文書と討議資料を出す
- デジタル証券サンドボックスでは、条件付きでステーブルコインを決済資産に使えることを確認した
なぜ重要か
回答者の多くが問題視したのは、決済ファイナリティである。当局は5月、一部の取引ではファイナリティを契約で定めうるとしていた。回答者はこれに反論し、法定のファイナリティでなければ倒産時に第三者へ対抗できず、決済待ちの証券は再担保や貸出に回せないと指摘した。担保の移動という最大の便益が、この法的な欠落によって損なわれる構図である。
日本でも、STのDVP決済やトークン化資産を担保とするレポの議論は、スピードの問題として語られがちだ。英国の回答は、効用の中心が担保効率にあり、その実現には決済と倒産に関する法制度の手当てが前提になることを示している。証券会社や信託銀行がトークン化の投資効果を試算する際も、決済日数の短縮より、担保として差し入れる余剰分をどれだけ減らせるかを軸に置くほうが実態に近いと考えられる。
注視点
当局は決済ファイナリティについて、「どこまで確実性を示せるか検討している」と述べるにとどめた。年内に公表する工程表で、各作業の目標日と、立法などの外部依存がどこまで示されるかが焦点となる。暗号資産型の証券の保管規則案は、2027年上期に意見募集を行う予定である。
進捗段階
規制トラック:①(意見集約を終え、工程表の策定前)。
用語解説
- 決済ファイナリティ:決済が取り消せない状態で完了したと法的に確定することである。英国では、指定を受けた決済システムに倒産法上の保護を与える規則がある。契約でファイナリティを定めても、当事者以外の債権者には対抗しにくい。
- デジタル証券サンドボックス(DSS):英国当局が、分散台帳による証券の発行・取引・決済を、本番の規制下で試せるようにした制度である。一部の規則を修正して適用する。試行の成果をもとに、恒久的な制度へ移すことが想定されている。
- DIGIT:英財務省が進める、分散台帳を使った国債のパイロット発行である。当局は、DIGITを中銀オペの担保に使えるかどうかも検討対象に含めた。
- トークン化MMF:短期金融商品で運用する投資信託の受益権を、トークンで表示・移転できるようにしたものである。解約して現金化しなくても担保として差し入れられれば、市場が逼迫した際の投げ売りを抑えられるとの期待がある。
出典
- Financial Conduct Authority / Bank of England「Feedback Statement FS26/1: Tokenisation in Wholesale Financial Markets」(2026年9月): https://www.fca.org.uk/publication/feedback/fs26-1.pdf
- Financial Conduct Authority「FS26/1: Tokenisation in wholesale markets」(2026年9月14日): https://www.fca.org.uk/publications/feedback-statements/fs26-1-tokenisation-wholesale-markets
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。