欧州銀行監督機構(EBA)は2026年9月24日、欧州委員会によるMiCA見直しの意見募集への回答を公表した。発行体規制は概ね適切と評価する一方、第三国と共同で発行するマルチイシュアー方式には重大ないし非常に重大なリスクがあるとして、制度の強化を求めた。準備資産の預金最低比率の見直しや暗号資産レンディングの規制も提言している。邦銀の欧州子会社や、円建て・ドル建てステーブルコインの域内流通を検討する事業者に関わる論点である。欧州委員会は2027年6月30日までに報告書を示すことになっている。
何が起きたか
EBAは9月24日、MiCA見直しに向けた欧州委員会の意見募集に回答した。基準日とした9月1日時点で、MiCAの下で発行された電子マネートークン(EMT)は39件、認可された資産参照型トークン(ART)はゼロである。回答書によれば、EMTを直接発行する信用機関は3行、子会社を通じて発行するのが1行あり、EU銀行の連合による発行構想もある。EBAはART・EMTの発行体要件を概ね適切としつつ、第三国と域内で同一のトークンを共同発行するマルチイシュアー方式については、重大ないし非常に重大なリスクがあるとして規制の変更を検討するよう求めた。あわせて、準備資産のうち預金で持つべき最低額の見直し、暗号資産の分類を巡る範囲と定義の明確化、発行体と暗号資産サービス事業者の報告枠組みの見直しを挙げた。DeFiの貸借プロトコルへの接続を仲介する場合を含め、暗号資産レンディングを規制対象とすることも提言した。
なぜ重要か
ESCB(欧州中央銀行制度)は9月22日、預金の最低比率を満期別の区分に置き換えるよう求めていた。今回EBAも同じ規定を見直し対象に挙げたことで、預金比率の見直しはほぼ既定路線になったとみられる。一方、マルチイシュアー方式への規制が強まれば、域外の大手発行体が欧州法人を通じて同じトークンを発行し、域内外で償還を融通し合う運営は難しくなる。これは、円建てステーブルコインを海外で流通させる構想や、海外の発行体と組んで電子決済手段を扱う国内事業者にも関係する。発行地ごとに準備資産と償還責任をどう切り分けるかは、日本の制度設計でも避けて通れない論点になりつつある。
注視点
MiCAは、欧州委員会に対し2027年6月30日までに適用状況の報告書を示し、必要に応じて改正案を添えるよう定めている。ESCBとEBAの意見がどこまで反映されるか、ESMAがどのような回答を出すか、そしてマルチイシュアー方式の域外発行体に追加の要件が課されるかが焦点となる。
進捗段階
規制トラック⓪(見直し議論の段階。当局意見の提出で、改正案は未提示) 実装トラック:対象外
用語解説
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電子マネートークン(EMT):MiCAで定義された、単一の法定通貨の価値に連動するトークン。電子マネー機関か信用機関だけが発行でき、額面での償還請求権が保有者に保証される。日本の電子決済手段にほぼ相当する。
- 英:e-money token (EMT) / 用例:Thirty-nine e-money tokens had been issued under MiCA by September 2026. (2026年9月時点で、MiCAの下で39件の電子マネートークンが発行されていた)
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資産参照型トークン(ART):複数の通貨や商品、暗号資産などの組み合わせに価値を連動させるトークン。価値の基準が単一通貨でないため、EMTより厳格な認可と開示が求められる。EBAは、実際の用途は決済よりも投資になるとみている。
- 英:asset-referenced token (ART) / 用例:No asset-referenced token has yet been authorised in the EU. (EUでは、資産参照型トークンはまだ一つも認可されていない)
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マルチイシュアー方式:同じブランド・仕様のトークンを、EU域内と域外の複数の法人が共同で発行する仕組み。保有者の償還請求が域外の準備資産に向かうおそれがあり、取り付け時に域内の償還が確保できるかが問題となる。欧州の当局間でも評価が分かれている論点である。
- 英:multi-issuer scheme / 用例:The EBA sees significant risks in third-country multi-issuer schemes. (EBAは、第三国とのマルチイシュアー方式に重大なリスクがあるとみている)
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暗号資産レンディング:利用者から暗号資産を預かって第三者に貸し出し、利回りを還元するサービス。現行のMiCAでは規制対象外で、保管の保護規定も貸出中の資産には及ばない。伝統的な金融では、証券貸借や預金に近い経済性を持つ。
- 英:crypto-asset lending / 用例:The EBA wants crypto-asset lending brought inside the MiCA framework. (EBAは、暗号資産レンディングをMiCAの枠組みに取り込むことを求めている)
出典
- 欧州銀行監督機構「The EBA identifies priorities for the review of MiCA」(2026年9月24日): https://www.eba.europa.eu/publications-and-media/press-releases/eba-identifies-priorities-review-mica
- 欧州銀行監督機構「EBA response to EC targeted consultation on MiCA review」(2026年9月): https://eba.europa.eu/sites/default/files/2026-09/12cb4f01-0d51-46bf-a561-165ac486698f/EBA%20response%20to%20EC%20targeted%20consultation%20on%20MiCA%20review.pdf
- 欧州委員会「Targeted consultation on the review of MiCA Regulation」(2026年): https://finance.ec.europa.eu/regulation-and-supervision/consultations-0/targeted-consultation-review-mica-regulation_en
- The Crypto Times「EBA Urges EU to Regulate Crypto Lending and DeFi Access Under MiCA」(2026年9月24日): https://www.cryptotimes.io/2026/09/24/eba-urges-eu-to-regulate-crypto-lending-and-defi-access-under-mica/
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