DeltaForesightは2026年9月25日、暗号資産を担保に過剰担保で発行する円連動目標の「JPYdf」と発行基盤「JPY DeFi」の概要を公表し、J-KISS型新株予約権で累計3億2,400万円を調達したと発表した。円での償還を約する発行者がいないため、同社は電子決済手段ではなく暗号資産に当たると整理する。金融機関にとっては、円預金を裏付けとしない円建て需要の受け皿が生まれうる点が論点だ。メインネットの時期は未定で、国内で誰が規制上の責任を負うかが次の焦点となる。
何が起きたか
DeltaForesight(2025年9月10日設立)は2026年9月25日、日本円との価値連動を目標とするJPYdfと、それを借り入れるDeFiプロトコル「JPY DeFi」の概要を公表した。あわせてCoral Capitalをリード投資家とするJ-KISS型新株予約権で累計3億2,400万円を調達したと発表し、引受先にはFFGベンチャービジネスパートナーズなどが入る。
JPYdfは、利用者が預け入れた暗号資産等を裏付けに過剰担保で発行され、担保率を下回れば清算される。神藤優介CEOはあたらしい経済の取材に、当初の担保資産はwstETH(ステーキング報酬を反映するETHの派生トークン)とUSDCだと答えた。メインネットは未公開で、同社は価値連動、円での償還、元本保全のいずれも保証しないと明記している。
なぜ重要か
国内の円ステーブルコインは、発行者が額面償還を約する電子決済手段として整備されてきた。JPYdfは償還を約する発行者を置かないため通貨建資産に当たらないと同社は整理する。2022年の金融審議会ワーキング・グループ報告も「暗号資産型」を別類型としており、方向は制度の想定内にある。ただし同報告は、償還の約束と実質的に同視できる買取りがあれば同等に扱うとし、判定はスキーム全体で行う。
金融機関にとっての論点は二つある。第一に、発行量が円の準備資産ではなく、世界の暗号資産担保の量で決まる点だ。銀行や信託が検討する円建て電子決済手段とは、DeFi上の借入・取引需要をめぐり競合しうる。第二に、価格の安定は清算と裁定に依存する。裁定に電子決済手段型の円コインや交換業者の円市場が使われれば、規制下の円インフラが価格安定の一部を事実上担うと考えられる。
注視点
第一に、規制上の責任主体である。同社は自らを設計・開発の「コントリビューター」と位置付けており、国内提供で誰が業規制と本人確認を担うかが問われる。2026年7月15日成立の改正法で暗号資産の規制は金融商品取引法へ移管され、施行後は新たな枠組みで扱いが決まる。第二に、円相場を参照するオラクルの設計と、急落時に清算を吸収できる流動性の厚みである。
進捗段階
⓪ 合意・表明のみ(実装系)
プロトコルの概要公表と会社としての資金調達の段階で、メインネットは未公開、提供機能・利用条件・時期も未定である。①に進むには、テストネットの公開や外部セキュリティ監査の結果開示など、実資産を伴わない技術検証の具体的な公表が必要となる。
用語解説
- 過剰担保(overcollateralization):借入額を上回る価値の担保を差し入れさせる仕組み。担保資産の価格変動が大きいため、多少下落しても借入額を割り込まない余裕を最初から持たせる。伝統金融の掛け目(担保評価額に一定率を掛けて与信枠を決める運用)を、より厳しく自動化したものに近い。
- 英:overcollateralization / 用例:JPYdf is minted only against positions that meet the protocol's overcollateralization requirement.(JPYdfは、プロトコルの過剰担保要件を満たすポジションに対してのみ発行される)
- 清算(liquidation):担保価値が所定の担保率を下回ったとき、担保を売却して借入を返済させる処理。人手を介さずスマートコントラクトが実行するため速いが、相場急変時には担保の投げ売りが連鎖しやすい。証拠金取引で追証が入らなかった場合の強制決済に相当する。
- 英:liquidation / 用例:A sharp fall in ETH could trigger liquidation of JPYdf positions near the minimum ratio.(ETHが急落すれば、最低担保率に近いJPYdfのポジションは清算されうる)
- オラクル(oracle):ブロックチェーンの外にある価格などのデータを、スマートコントラクトが読める形でチェーン上に持ち込む仕組み。チェーンは自ら外部の相場を知ることができないため必要になる。担保評価や清算の判定はこの値に依存するため、誤作動や操作は利用者の損失に直結する。
- 英:oracle / 用例:The protocol relies on a price oracle to value ETH collateral in yen terms.(プロトコルは、ETH担保を円建てで評価するために価格オラクルに依存する)
- 通貨建資産(currency-denominated asset):資金決済法上の概念で、法定通貨で表示され、または法定通貨で債務の履行・払戻し等が行われる資産を指す。これに当たるものは暗号資産の定義から外れ、決済に使われる場合は電子決済手段として発行者に銀行・資金移動業等の規律が及ぶ。ステーブルコインがどちらの制度に入るかを分ける境界線である。
- 英:currency-denominated asset / 用例:Without a par redemption promise, the token falls outside the scope of currency-denominated assets.(額面償還の約束がなければ、そのトークンは通貨建資産の範囲外となる)
- J-KISS型新株予約権(J-KISS):日本のスタートアップ投資で広く使われる、新株予約権による資金調達の定型スキーム。企業価値を確定させずに出資を受け、次回の株式調達時に株式へ転換される。今回の調達は会社の運営資金であり、JPYdfの担保や準備資産とは無関係である点に注意が要る。
- 英:J-KISS (Keep It Simple Security) / 用例:The J-KISS round funds the company's operations and does not back JPYdf in any way.(今回のJ-KISSラウンドは会社の運営資金であり、JPYdfの裏付けにはならない)
出典
- DeltaForesight株式会社「日本円との価値連動を目標とする暗号資産型ステーブルコイン『JPYdf』を開発するDeltaForesight、J-KISSで累計3億円超を調達」(2026年9月25日): https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000190693.html
- あたらしい経済「円連動目標の暗号資産型ステーブルコイン『JPYdf』発行へ、DeltaForesightがCoral CapitalやFFGらから累計3.24億円調達」(神藤優介CEOへの取材を含む)(2026年9月25日): https://www.neweconomy.jp/posts/610779
- 金融庁 金融審議会「資金決済ワーキング・グループ」報告(2022年1月11日): https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111/houkoku.pdf
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月): https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
- PwC弁護士法人「暗号資産に係る2026年金商法等改正法の成立」金融法務ニュースレター(2026年7月28日): https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20260728-4.html
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。