米The Clearing House(TCH)は2026年9月24日、トークン化預金の銀行間の清算・決済網「On-Chain Money Initiative」の技術提供者に英Quantを選んだ。提供開始は2027年上期の予定である。英国では同日、UK Financeが呼びかけた大手7行の「GBTD」が、トークン化したポンド預金で初めて実際の顧客取引を行った。GBTDの基盤もQuantが開発している。日本の銀行間決済の設計にも通じる論点である。米国の参加行と、英国での取引の拡大が次の焦点だ。
何が起きたか
TCHは9月24日、6月に発表したOn-Chain Money Initiativeの基盤にQuantの技術を採用すると発表した。規模を問わず金融機関がトークン化預金の取引を清算・決済できる、相互運用型の決済網をつくる計画である。Quantは、相互運用、処理の調整、取引管理の層を担い、RTPやCHIPSといった既存の決済網との接続も提供する。即時の決済や、条件を満たすと自動で実行される支払いを目指し、2027年上期に参加機関へ提供する予定だ。TCHの決済網は1日に2兆ドル(約314兆円、1ドル=156.94円で換算)を超える資金を清算・決済している。英国ではUK Financeが同日、GBTDで初の顧客取引が完了したと発表した。参加行はバークレイズ、HSBC UK、ロイズ・バンキング・グループ、モンゾ、ネーションワイド、ナットウエスト、サンタンデールの7行である。住宅ローンの借り換えの決済2件では、資金をロックしたうえで、完了時に自動で解放した。個人間の商品売買では、商品の受け渡しが済むまで買い手の資金をロックした。
なぜ重要か
トークン化預金は銀行の預金債務のままなので、預金保険や規制の保護を保ったまま、オンチェーンで動かせる。ただし、各行がそれぞれ仕組みを持つと、他行の顧客への支払いが難しくなる。米英はともに、新しい通貨をつくるのではなく、既存の銀行間決済とつながる共通の層を置く方法を選んだ。日本でも、銀行ごとの発行基盤と、全銀システムや日銀当座預金との接続をどう設計するかが課題になる。米英の中核的な層を同じ1社が担う構図になった点も見逃せない。技術の標準化が進む一方で、特定の事業者への依存をどう管理するかは、利用する銀行の委託先管理の論点になる。
注視点
TCHの参加行の顔ぶれと、最終決済をどの資金で行うかの設計が第一の焦点である。GBTDについては、デジタル資産の決済と組み合わせる次の実証の時期と、取引件数がどこまで増えるかを見たい。英中銀の実験の場で、中銀マネーとの同時決済がどう扱われるかもあわせて確認したい。
進捗段階
実装トラック:英GBTDは②(実際の顧客と資金を伴う取引が完了したが、件数は限られ、既存の手続きと併存している)。米TCHは⓪(技術提供者を選んだ段階で、網の提供は2027年上期の予定) 規制トラック:対象外
用語解説
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トークン化預金:銀行の預金を、ブロックチェーンなどの台帳上で動かせる形にしたもの。発行者は銀行で、法的には従来と同じ預金債務のため、預金保険や銀行規制の保護が保たれる。銀行が発行するステーブルコインとの違いは、裏付け資産を別に持つのではなく、預金そのものである点にある。
- 英:tokenized deposit / 用例:A tokenized deposit remains a bank liability with the usual protections. (トークン化預金は、通常の保護を伴う銀行の債務であり続ける)
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相互運用性:異なる銀行や異なる台帳の間で、資金や情報をやり取りできること。各行が独自の仕組みを持つと、預金は自行の顧客の間でしか動かせない。銀行間の共通層は、他行の顧客への支払いと銀行どうしの清算を可能にするために置かれる。
- 英:interoperability / 用例:Interoperability lets tokenized deposits move between customers of different banks. (相互運用性があれば、トークン化預金を異なる銀行の顧客の間で動かせる)
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条件付き決済:あらかじめ決めた条件が満たされたときに、自動で資金が支払われる仕組み。住宅の引き渡しや商品の受け渡しなど、双方の履行を合わせたい取引で、相手方の不履行や詐欺のリスクを減らせる。伝統的な金融では、エスクローや同時決済の仕組みが担ってきた機能である。
- 英:conditional payment / 用例:Conditional payments released the remortgage funds only at completion. (条件付き決済によって、借り換えの資金は完了時にだけ解放された)
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RTPとCHIPS:TCHが運営する米国の決済網。RTPは24時間即時の小口決済、CHIPSは大口の銀行間決済を担う。新しいトークン化預金の網は、これらの既存の決済網とつなぐ前提で設計されている。
- 英:RTP and CHIPS networks / 用例:The new network will connect to the RTP and CHIPS networks for settlement. (新しい決済網は、決済のためにRTPとCHIPSの網に接続される)
出典
- The Clearing House「The Clearing House Partners with Quant to Advance the On-Chain Money Initiative」(2026年9月24日): https://www.theclearinghouse.org/payment-systems/Articles/2026/09/The-Clearing-House-Partners-with-Quant-to-Advance-the--On-Chain-Money-Initiative
- UK Finance「UK banks complete first live customer transactions using tokenised sterling deposits」(2026年9月24日): https://www.ukfinance.org.uk/news-and-insight/press-release/uk-banks-complete-first-live-customer-transactions-using-tokenised
- Ledger Insights「UK tokenized deposit platform GBTD conducts first live transactions」(2026年9月24日): https://www.ledgerinsights.com/uk-tokenized-deposit-platform-gbtd-conducts-first-live-transactions/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。