三菱UFJアセットマネジメントなど三菱UFJ3社とProgmatは2026年9月3日、国内籍のトークン化投資信託を8月31日に設定し、実運用環境で実証を開始したと発表した。運用対象は残存3カ月以下の短期国債で、日々の購入・解約が可能な円建て投信。外部投資家への募集・販売は行わない。運用会社と信託銀行には、受益権の原簿をオンチェーンで管理する業務が現行法の下でどこまで回るかを見る初の事例になる。トークンの移転だけで権利移転が完結する制度は未整備で、投資信託法の券面不発行制度の不在が次の論点となる。
何が起きたか
4社は2026年8月31日にファンドを設定し、9月3日に「本邦初の国内籍トークン化投資信託の設定・実運用環境における実証実験の開始」として公表した。運用・受託・権利管理・システム運営の一連のプロセスを実運用環境で検証する。受益権の権利は券面に表示したうえで、原簿管理をオンチェーンで実施する予定という。利用する分散型台帳は、Progmatが7月にCorda 5から移行を完了したAvalanche L1である。日本経済新聞は、残存3カ月以下の短期国債に投資する円建て投信で、同社が自己資金2億円をシードマネーとして拠出したと報じ、Progmat代表取締役の齊藤達哉氏は内容に相違ないとしている。設定額は非公開。4社は2025年12月にトークン化MMF(TMMF)の基盤整備で協業を開始したが、今回のファンドがTMMFに該当するかは示されていない。
なぜ重要か
日本の運用会社・信託銀行・証券会社にとって、これは「発行できるか」ではなく「継続運営できるか」を問う実証である。投資信託は設定後も基準価額の算定、追加設定と一部解約、収益分配、照合・報告といった業務が日々続く。ST発行の実績は積み上がっているが、投信の継続業務をオンチェーンの原簿で回した例はなかった。あわせて、齊藤氏が「原簿のオンチェーン管理」と「トークン移転による法的権利移転の完結」を明確に切り分けた点は実務上の含意が大きい。投資信託法第6条は委託者指図型投資信託の受益権を受益証券で表示するよう定めており、振替制度を使わない非振替型の国内籍投信には恒久的な券面不発行制度がない。現時点のトークンは権利の表章ではなく、原簿の記録手段にとどまると考えられる。
注視点
第一に、外部投資家への提供拡大の時期と、必要な法令上の手当てである。第二に、券面不発行制度の整備がどの枠組みで議論されるか。金融審議会の新規諮問にデジタル資産は含まれておらず、議論の場が明示されていない。第三に、4社が段階的に広げるとしたステーブルコイン・トークン化預金との連携である。余剰資金の運用と決済手段の切り替え、担保利用、DvPが視野に入るが、いずれも現時点では検証範囲外にある。
進捗段階
実装トラック②相当。実運用環境で法定の投資信託を設定し継続業務を回す段階に入った一方、募集・販売は行われず、トークン移転が法的な権利移転を完結させる構造にもなっていない。実証と本番の中間に位置づけるのが正確である。
用語解説
- トークン化投資信託:投資信託の受益権をブロックチェーン上で記録・管理する仕組み。従来も振替制度で電子化されているが、振替機関という中央の台帳管理者を介する。オンチェーン化の狙いは電子化そのものではなく、資金・担保・業務指図をプログラムで連携できるようにすることにある。
- 原簿:受益者の氏名や保有口数を記録した正式な名簿。誰が権利者かを確定する根拠となる。これをオンチェーンで持つことと、トークンの保有自体が権利を意味することは、法的には別の話である。
- 券面不発行制度:有価証券について紙の証券を発行しないことを法律で認める制度。株式や社債では振替法で整備されているが、振替制度を使わない国内籍投資信託には恒久的な制度がなく、トークンだけで権利移転を完結させる際の障害になる。
- TMMF(トークン化マネー・マネージメント・ファンド):株式を組み入れず、国債など信用度の高い短期金融商品で運用する公社債投信をトークン化したもの。海外では発行体の準備資産やデリバティブ証拠金の担保として使われ始めており、機関投資家の資金効率改善が想定用途となる。
- Avalanche L1:Avalancheの技術基盤上に構築される独立したブロックチェーン。参加者や手数料の設計を発行体側で決められるため、金融機関が求める権限管理と親和性が高い。ProgmatはCorda 5からの移行を2026年7月に完了している。
出典
- 三菱UFJアセットマネジメント・三菱UFJモルガン・スタンレー証券・三菱UFJ信託銀行・Progmat「本邦初の国内籍トークン化投資信託の設定・実運用環境における実証実験の開始」(2026年9月3日): https://www.am.mufg.jp/corp/press/__icsFiles/afieldfile/2026/09/03/release_260903.pdf
- グッドウェイ(同リリース転載)(2026年9月3日): https://goodway.co.jp/news/33571
- あたらしい経済「国内初、三菱UFJアセットらがProgmatと実証用『トークン化投信』設定。短期国債で運用」(2026年9月3日): https://www.neweconomy.jp/posts/604882
- 三菱UFJ信託銀行「本邦初のトークン化投資信託の商品化に向けた基盤整備に関する協業開始」(2025年12月5日): https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000267.000036656.html
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。