コインベースがアブダビの金融サービス規制庁から許可を取得し、国際的なトークン化拠点を置くと発表した。注目すべきは許可そのものよりも、同社が「どの法域なら成立するか」を基準に拠点を選んでいることである。トークン化の競争軸が、技術から規制枠組みへ移りつつある。
何が起きたか
コインベースは、アブダビの国際金融センター「アブダビグローバルマーケット(ADGM)」の金融サービス規制庁(FSRA)から金融サービス許可(FSP)を取得したと公表した。この許可により、投資取引の手配とカストディの提供が可能となり、トークン化証券事業の立ち上げに向けた基盤が整う。
枠組みの設計は次のとおりである。ADGMで登録・発行されるトークン化証券は、FSRAの監督下で裏付けとなる株式により全額裏付けられる。トークン保有者は配当や議決権を含む株主としての権利を得るが、議決権など一部の権利を行使できるのは、目論見書に定める権利確定条件を満たした保有者に限られる。配当は自動的に再投資され、権利確定の前後を問わず保有者が経済的利益を受けられる一方、償還権の対象となるのは権利確定済みの保有者のみである。
同社が強調する実務上の特徴は二点ある。第一に、投資家は証券口座もコルレス銀行関係も必要とせず、ウォレットがあればよい。ただし償還権を行使する際には、償還代金を受領できる証券口座または銀行口座が必要となる。第二に、すべての移転に継続的な制裁スクリーニングを適用し、必要な場合にはウォレット単位で資産を凍結・差し押さえることができる。同社はこれを、DeFiと規制上の健全性が対立しないための設計と位置づけている。
コインベース・インスティテューショナルのブレット・テジパウル共同CEOは、ADGMが2018年に世界で最も早い時期に仮想資産の規制枠組みを整備したことに触れ、トークン化株式を証券であると同時にブロックチェーンネイティブなトークンであり、かつDeFiで組み合わせ可能な資産として扱う枠組みを構築した主要金融センターはこれまで存在しなかった、と述べている。同社はアブダビをトークン化証券とオンチェーン資本市場の拠点、ドバイをグローバルなデリバティブ事業の拠点とする方針で、米国外で最も野心的な二つの事業をUAEに置く構えである。
なぜ重要か
第一に、規制枠組みの言語化である。トークン化株式は「証券」「トークン」「DeFi構成要素」という三つの性質を同時に持つが、既存の証券法制はこれらを別々に扱うよう設計されている。日本でも金融商品取引法と社債株式等振替法の枠組みでトークン化株式をどう位置づけるかが検討課題となっており、三つを同時に成立させる規制設計は共通の論点である。
第二に、凍結・差押えをウォレット単位で行える設計を、コンプライアンス要件としてあらかじめ組み込んでいる点である。パブリックチェーンを使いつつ制裁スクリーニングと資産凍結を両立させる仕組みは、日本の金融機関が公開型ブロックチェーンの利用を検討する際にも必須の要件となる。
第三に、法域間競争である。ジブラルタル、アブダビ、ドバイ、シンガポール、香港が、それぞれトークン化証券の受け皿を整備しつつある。事業者は制度が整った法域を選んで拠点を置く。日本がトークン化株式の制度整備を進めるスピードは、国内市場に事業と人材が残るかどうかに直結する。
注視点
具体的にどの銘柄をいつから提供するかは示されていない。権利確定条件の内容は目論見書に依存し、日本の居住者が対象となるかも不明である。またウォレットのみで参加できるのは取引段階までで、償還時には口座が必要となるため、既存の金融インフラから完全に切り離されているわけではない。制度の実効性は、実際に発行される証券の質と流動性で評価されることになる。
出典
- Coinbase「Coinbase establishes its tokenization hub in Abu Dhabi, with Financial Services Permission from the Financial Services Regulatory Authority (FSRA)」(2026年8月): https://www.coinbase.com/blog/coinbase-establishes-its-tokenization-hub-in-abu-dhabi
- ADGM「Coinbase establishes its tokenization hub in Abu Dhabi, with Financial Services Permission from the Financial Services Regulatory Authority」: https://www.adgm.com/media/announcements/coinbase-establishes-its-tokenization-hub-in-abu-dhabi-with-financial-services-permission-from-the-financial-services-regulatory-authority
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