NEWS日本実装限定実装(パイロット)2026-08-24

円建てステーブルコインの「器」が足りない AZ-COM丸和のJPYC導入が突き当たった三つの制度の壁

協力会社への支払いをまるごとステーブルコインに置き換える。その構想が突き当たったのは技術ではなく、資金決済法の枠と会計実務の側にある壁だった。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

AZ-COM丸和ホールディングスは2026年7月22日、円建てステーブルコイン「JPYC」の発行体と約10億円の資本業務提携を結び、協力会社約2,300社への委託費支払いに段階導入する方針を示した。8月20日公開の取材では、発行総額の上限、1回100万円の送金枠、期末に残高を公的に証明できないという三つの制度的制約が、実装を阻む要因として語られた。同社の月次売上原価約174億円に対し、JPYCの総流通量は約28億円にとどまる。導入開始は早くて2026年内で、稼働はまだ始まっていない。

何が起きたか

両社は7月22日、資本業務提携の覚書締結を発表した。AZ-COM丸和はJPYC社のB1種優先株式11万6,000株を1株8,630円、総額約10億108万円で引き受け、議決権保有比率は2.9%となる。払込期日は7月30日を予定していた。あわせて、和佐見勝社長個人が同社株20万株を保有していることも開示された。

導入開始は早くて年内、まず首都圏から対象を絞って始める。締めから支払いまでの日数は現行の20日から5日前後への短縮を目標とする。

一方で、8月20日に公開された取材記事は三つの制約を具体的に示した。第一に発行総額の天井である。JPYC社は資金決済法上の第二種資金移動業者にあたり、発行残高を上回る額の履行保証金を保全する義務を負う。上乗せ分は発行体の自己資金で賄うため、資本の厚みがそのまま発行可能額の上限になる。第二に、第二種資金移動業では1回あたりの取扱上限が100万円と定められている点である。JPYC社は2026年5月に運用ルールを「1日100万円」から「1回100万円」へ改めているが、枠そのものは法改正の領域にある。第三に会計・監査で、期末の評価方法や勘定科目、さらに残高を公的な効力をもって証明する手段が定まっていない。同社は四半期末・年度末に残高を一度ゼロに戻す運用を想定しているという。

規模感の対比も示された。同社の2026年3月期の売上原価は約2,084億円で、月あたりおよそ174億円にあたる。これに対しJPYCの総流通量は、オンチェーンデータ集計サイトの数値で8月中旬時点の約28億円にとどまる。事前発行分だけで50億〜60億円が必要になるとの見立てが示された。

なぜ重要か

銀行にとっては送金手数料収入の直接的な代替が現れたことを意味する。同社は振込手数料を一口平均で約160円、地方の信用金庫宛では800円程度と説明しており、小口・多頻度の支払いを抱える事業会社ほど代替の動機が強い。

同時に、発行体側に回る商機でもある。第二種資金移動業のままでは大企業のB2B決済は載りきらないため、認可制で送金上限のない第一種への移行や、信託型ステーブルコインへの構造転換が現実的な選択肢になる。3メガバンクが2026年度中の円建てステーブルコイン実取引を目指す文脈と正面から重なる論点である。

経理・監査の実務にも直結する。電子決済手段の期末評価と残高証明の枠組みが実務レベルで空白だという指摘は、上場企業が保有する場合の開示・監査対応の課題として、信託銀行や監査法人にとっても他人事ではない。

注視点

内閣府が同社にヒアリングを行い、金融庁にも要望が提出されたとされる。制度側がどう応じるかが最大の変数である。資金移動業の類型変更や信託型への移行、残高証明の実務整備、そして年内という開始目標が守られるかを追う必要がある。なお現時点で確定しているのは資本業務提携と段階導入の方針であり、稼働はまだ始まっていない。

用語解説

  • 電子決済手段:資金決済法上の区分で、法定通貨建てで額面どおりに償還される移転可能な価値記録を指す。JPYCはこれに該当し、価格が変動する暗号資産とは法的な位置づけが異なる。裏付け資産は預貯金と国債で保全される。
  • 第二種資金移動業者:資金決済法が定める資金移動業の三類型のうち、1回あたり100万円以下の送金を扱う登録制の区分。上限のない第一種は認可制で要件が重い。JPYC社は2025年8月に第二種の登録を受けている。
  • 履行保証金:資金移動業者が利用者に対する債務の全額に還付手続費用を上乗せした額を供託等で保全する制度。利用者資産の保護を目的とするが、発行体から見れば同額以上の資産が拘束されるため、発行可能額の実質的な上限を形づくる。
  • 事前発行:請求の発生を見越して、支払いに必要な額のステーブルコインをあらかじめ発行しておく運用。発行から支払いまでの時間を短縮できる一方、発行体・利用者の双方に残高を抱えるコストが生じる。
  • 信託型ステーブルコイン:信託銀行が受託者となり、信託受益権の形で発行するステーブルコイン。資金移動業型と異なり送金上限の制約を受けにくく、国内では三菱UFJ信託銀行のProgmat Coin基盤などが該当する。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-24

この記事をシェアする

X・Facebook・LinkedInで、今すぐ友達に届ける。

SHARELB!

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。