NEWS日本制度検討・研究2026-08-26

金融庁、信託型ステーブルコインの調書提出義務見直しを税制改正要望へ 「100万円の壁」の正体は税務手続

上限規制ではなく、移転のたびに生じる書類が信託型の流通を止めていた。制度の穴が、規制ではなく税務側にあったという話である。

BY OFM Research · 4 MIN READ

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日本経済新聞は2026年8月24日、金融庁が信託型ステーブルコインについて、受益者の変更時などに受託者へ課される相続税法・所得税法上の書類提出義務を一律で不要とするよう求める方針だと報じた。近くまとめる税制改正要望に盛り込み、年末の税制改正大綱を経て2027年度以降の実現を目指すとされる。信託型には1回あたりの送金額や保有残高に法律上の上限はなく、高額決済を阻んできたのは上限規制ではなく事務負担だった。要望書そのものは8月26日時点で公表されておらず、対象範囲も確定していない。

何が起きたか

対象は、信託銀行や信託会社が発行する信託型ステーブルコインである。資金決済法上は「特定信託受益権」と位置づけられ、第3号電子決済手段に分類される。

現行制度では、信託の受益者等が変更されると、受託者は原則として相続税法に基づく「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を税務署に提出する必要がある。ただし受益者別に算定した信託財産の価額が50万円以下の場合などは免除される。所得税法に基づく支払調書も求められる。信託型では、コインの移転がそのまま受益者の変更にあたるため、決済のたびに受託者側で手続きが生じうる。

報道されている要望は、この提出義務を一律で不要とするものである。金額上限そのものを撤廃する話ではない。「100万円の上限」として語られるのは資金移動業型に適用される送金上限であり、信託型には法律上の一律の上限は設けられていない。

なぜ重要か

信託銀行にとっては、発行体としての事務負担が構造的に消えるかどうかの問題である。移転のたびに調書が発生する状態では、パブリックチェーン上での自由な流通は事実上成り立たない。三菱UFJ信託銀行のProgmat Coinや、SBI新生信託銀行が2026年6月24日に発行したJPYSCが外部ウォレットへの送付や広範な流通に踏み出せるかは、この論点の帰趨に左右される。

競争条件の観点も大きい。資金移動業型のJPYCは1回100万円の上限を負う一方、信託型は上限がない代わりに事務負担を負ってきた。片側だけが緩和されれば非対称が生じる。証券会社や不動産・自動車販売など高額取引を扱う業種にとっては、セキュリティトークンや不動産決済の現金レッグとして信託型を使う道が現実味を帯びる。ただし現時点では要望の方針が報じられた段階であり、決定ではない。

注視点

第一に、要望書の公表内容。例年8月末に各省庁の税制改正要望が出そろうため、報道と実際の文言が一致するかの確認が要る。第二に、「一律不要」の適用範囲。決済目的の移転に限るのか、投資目的の保有・譲渡まで含むのかで実務への効き方が変わる。第三に、資金移動業型の送金上限見直しが並行するかどうか。第四に、マネロン対策との整合である。

用語解説

  • 特定信託受益権/第3号電子決済手段:信託銀行等が利用者から預かった円などを信託財産として管理し、それを受け取る権利をデジタル化したもの。資金決済法上のステーブルコインの一類型で、暗号資産とは別のカテゴリーに置かれる。裏付資産が信託で分別管理されるため、発行体が破綻しても利用者資産が守られやすい設計になっている。
  • 資金移動業型と信託型:日本でステーブルコインを発行できる主体は、銀行、信託銀行・信託会社、資金移動業者に限られる。資金移動業型(JPYCなど)は第二種資金移動業に準じた1件100万円の送金上限を負う一方、信託型には法律上の一律の上限がない。両者は同じ「ステーブルコイン」でも、負う規制の種類が異なる。
  • 信託に関する受益者別(委託者別)調書:信託の受益者が変わった際などに、受託者が受益者の氏名・信託財産の価額等を記載して税務署へ提出する書類。相続税法に根拠を持ち、贈与や相続による財産移転の捕捉を目的とする。信託型ステーブルコインでは移転が受益者変更にあたるため、決済のたびに提出事由が生じうる。
  • 支払調書:一定の支払について、支払者が支払先・金額等を税務署に報告する書類の総称。所得税法などに基づき、報酬や利子、償還金などが対象となる。受け取る側の申告漏れを防ぐための情報申告制度で、事業者側の事務コストを構成する。
  • 税制改正要望:各省庁が翌年度以降の税制改正を求めて8月末頃に財務省・総務省へ提出する文書。与党税制調査会の議論を経て年末の税制改正大綱に反映され、翌年の法改正につながる。要望の提出は決定ではなく、大綱に載らずに終わる項目も少なくない。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-26

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