トランプ大統領は8月19日のホワイトハウス暗号資産サミットで、CFTCのセリグ委員長がHyperliquidを「完全に適法な形で」米国に迎え入れるべく取り組んでいると述べた。海外に出て行ったデリバティブ取引をどう国内の監督下に引き戻すかという問題であり、既存の取引所ビジネスの輪郭に関わる話でもある。
何が起きたか
サミットにはSECのアトキンス委員長、CFTCのセリグ委員長に加え、コインベース、リップル、ジェミナイ、ロビンフッド、Polymarket、Kalshiといった暗号資産・予測市場の各社と、ナスダック、NYSEなど既存の取引所側も参加した。ICEのスプレッチャーCEOが大統領の隣に並んだ写真が示すとおり、暗号資産と既存市場インフラを同じテーブルに載せる構図だった。
Hyperliquidは分散型のパーペチュアル・フューチャーズ取引所として最大手だが、CFTC登録の取引所ではなく、利用規約と接続元IPの制限により米国居住者を排除している。大統領の発言は、この状態を解消する方向で当局が動いていることを示すものだが、申請・承認・時期のいずれも公表されていない。セリグ委員長は詳細を後日示すとしている。
CFTCは2026年5月にKalshiのビットコイン・パーペチュアル契約を米国規制下で初めて承認し、同日コインベースに対しては海外関連会社Deribit上場のパーペチュアル契約へ顧客を取り次ぐノーアクション・レリーフを付与している。今回の発言はその延長線上にある。
市場の反応は明確だった。HYPEは18%前後上昇して過去最高値圏に接近し、HYPEを保有する上場会社Hyperliquid Strategiesの株価は一時31%上昇した。一方でCMEグループ、Cboeグローバル・マーケッツ、マイアミ・インターナショナル・ホールディングスの株価はそろって下落した。
なぜ重要か
日本の証券会社・取引所にとっての論点は、トークン価格ではなく取引所機能の分解にある。
Hyperliquid側が求めているのは、自らが米国の指定契約市場の免許を取って既存の枠組みに自社を作り替えることではない。既に免許を持つ米国の仲介業者を規制上の接点とし、執行・清算・決済はブロックチェーンが担う、という分業である。この形が認められれば、取引所の中核機能とされてきた注文の突合と清算が、免許を持つ主体の外側に移ることになる。既存取引所の株価が同時に下げたのは、この構造を市場が読んだためとみられる。
日本では、金融商品取引清算機関は免許制であり、清算機能をパブリックブロックチェーンが担う構造は現行法に置き場所がない。加えて暗号資産関連デリバティブは個人向けレバレッジが2倍に制限され、パーペチュアル型の商品は国内に存在しない。米国が制度内にパーペチュアルを取り込むほど、国内で提供できる商品との差は開く。海外業者へのアクセスをどう整理するかという既存の論点に加え、清算機能の所在という新しい論点が乗ってくる。
注視点
第一に、これは大統領の発言であってCFTCの決定ではない。Hyperliquidは現時点でも米国からの接続を遮断しており、状況は変わっていない。
第二に、ノーアクション・レリーフや政策声明は、規則や法律と違って次の政権や委員が覆せる。業界がCLARITY法の成立にこだわる理由はここにある。同法は上院で9月15日にクローチャー投票が予定されているが、可決には60票が必要で共和党の議席は53にとどまる。予測市場が織り込む年内成立確率は8月中旬時点で15〜21%程度と、2月のピークから大きく低下している。
第三に、大統領の発言直後に関連銘柄が急騰した経緯そのものが論点になりうる。発言前のコール買いに不自然なものがあったとの指摘も出ており、政策発信と市場の値動きの距離が問われる展開はありうる。
なお同サミットで大統領は、米国政府がビットコインを相当量購入することを検討していると述べた。ただし購入計画も時期も示されておらず、2025年3月の大統領令で設立された戦略ビットコイン準備は没収資産による予算中立が原則である。発言と政策変更は分けて読む必要がある。
用語解説
パーペチュアル・フューチャーズ(perpetual futures) 満期日のない先物取引。通常の先物は限月ごとに乗り換えが必要だが、パーペチュアルはポジションを持ち続けられる。満期がないと先物価格が現物価格から乖離したまま戻らないため、買い方と売り方の間で定期的に資金をやり取りする「ファンディングレート」という調整機構を組み込んで価格を現物に収斂させる。暗号資産デリバティブの取引高の大半をこの形式が占めるが、日本では個人向けレバレッジ規制もあり提供されていない。
perp DEX(分散型パーペチュアル取引所) 運営会社が注文板を管理するのではなく、スマートコントラクトが注文の突合から決済までを実行するパーペチュアル取引所。Hyperliquidはこの分野の最大手で、独自のブロックチェーン上で板取引を処理している。従来の取引所では別々の主体が担ってきた執行・清算・決済を、ひとつのプロトコルがまとめて処理する点が構造上の特徴である。
ジオブロッキング(geo-blocking) 接続元のIPアドレスを判定して特定の国・地域からのアクセスを遮断すること。Hyperliquidはこれと利用規約により米国居住者を排除している。ただし遮断されているのはウェブ画面であって、その下で動くブロックチェーン自体は誰でも接続できる。この「フロントエンドは閉じているが基盤は開いている」という構造が、規制上どこを規制対象と捉えるかを難しくしている。
ノーアクション・レリーフ(no-action relief) 米国の規制当局が、特定の行為について当面は執行措置を取らないと文書で示す運用。法令そのものは変えずに実務上の道を開ける手段で、迅速な反面、当局の判断で撤回できる。日本のノーアクションレター制度に相当するが、米国では新分野の暫定的な受け皿として使われる頻度が高い。
デジタル資産トレジャリー企業(DAT、digital asset treasury company) 特定の暗号資産を貸借対照表に積み上げることを主たる事業とする上場会社。株式を買うことで間接的にその暗号資産へのエクスポージャーを取れるため、暗号資産を直接保有できない投資家の受け皿になる。今回株価が急騰したHyperliquid Strategiesはこの類型で、HYPEを保有対象としている。
出典
- The White House「Remarks by President Trump at a Summit with Crypto and Technology Leaders」(2026年8月19日): https://www.whitehouse.gov/
- Commodity Futures Trading Commission(セリグ委員長関連の発言・政策): https://www.cftc.gov/PressRoom/SpeechesTestimony
- Hyperliquid「Terms of Use」(米国居住者の利用制限): https://hyperliquid.gitbook.io/hyperliquid-docs
- 為替レート:USD/JPY 159.61円(2026年8月19日終値)
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。