NEWS日本実装①実証実験(PoC)2026-08-20

CAC、ステーブルコインとRWAトークンのマルチチェーンDvP決済基盤「Pactora」提供開始──決済リスクを与信管理ではなく構造で消す

CACは8月19日、ステーブルコインとRWAトークンの取引に対応するマルチチェーンDvP決済基盤「Pactora(パクトラ)」の提供を開始した。「代金を払ったのに資産が届かない」という決済リスクを、相手方の与信管理ではなくトランザクションの構造で排除しようという設計である。

BY OFM Research · 6 MIN READ

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CACは8月19日、ステーブルコインとRWAトークンの取引に対応するマルチチェーンDvP決済基盤「Pactora(パクトラ)」の提供を開始した。「代金を払ったのに資産が届かない」という決済リスクを、相手方の与信管理ではなくトランザクションの構造で排除しようという設計である。

何が起きたか

Pactoraは、信託銀行・証券会社・資産運用会社での利用を想定したエスクロー(第三者預託)型のプラットフォームで、トークンの発行・募集・購入・決済を一つの基盤上で完結させる。核となるのは、RWAトークンの受け渡しとステーブルコインによる支払いを同一トランザクション内でアトミックに実行する点だ。どちらか一方だけが成立する状態が原理的に生じない。

対応チェーンはAvalanche(EVM互換)、Solana(高速・低コスト)、Canton Network(金融機関向けでプライバシー重視の設計)等で、CACはこの三者を「設計思想の異なる」チェーンと位置づけている。各チェーン上でスマートコントラクトとエスクロー機能をそれぞれ実装したうえで、チェーン間の差異を基盤側で吸収し、利用者には共通のUI/UXを提供する構成である。

想定ユースケースには、金融機関によるステーブルコイン・預金トークンの発行流通支援(資金サイド)と、デジタル社債やファンド受益権のトークン化支援(資産サイド)に加え、サプライチェーン決済用の共通トークン、ポイント・社内通貨、会員権・利用券のトークン化が挙げられている。

CACは2016年にブロックチェーン専門組織を設置し、エンタープライズ向けブロックチェーンCordaの国内唯一のプレミアパートナーとして金融機関を支援してきた。2025年からパブリックチェーン領域に対象を広げており、今回はその延長線上の展開にあたる。開発にはAI駆動開発を用い、実装・セキュリティ上のリスクを人的に確認しながら進めたことも明記されている。

なぜ重要か

日本のセキュリティトークン市場では、資産の移転はチェーン上で行う一方、代金の授受はチェーンの外で行う構成が長く続いてきた。DvPと呼びながら、実態としては両者を運用と契約で紐づけていたにすぎない。JPYCやJPYSCといった円建てステーブルコインが揃い、資金サイドがチェーンに乗って初めて、両レグを同一トランザクションに収める構成が現実的になる。Pactoraはこの前提の変化に合わせた製品である。

もう一つの論点はチェーン選択だ。国内のST基盤はProgmat(Corda系)とibet for Fin(Quorum系)が二大勢力で、いずれも許可型を出自とする。ここにパブリックチェーンが加わると、金融機関は「どのチェーンに乗るか」という後戻りしにくい選択を迫られる。基盤側で差異を吸収するという設計は、その選択を先送りできるようにする提案と読める。Canton Networkが対応対象に入っている点も、国内ベンダーの製品としては目を引く。

CACはメガバンク系でもコンソーシアム主体でもない独立系SIerである。特定の陣営に属さない事業者が金融機関向けのオンチェーン決済基盤を出してきたこと自体が、この領域の担い手が広がりつつあることを示している。

注視点

第一に、これは製品の提供開始であって、実案件の稼働ではない。導入金融機関名も実取引の実績も公表されていない。オンチェーン金融の発表は「提供開始」「稼働」といった語だけでは進捗を測れない。法的な権利移転が起きたか、チェーン上の記録が正となっているか、反復的な業務フローに組み込まれているかを確認する必要がある。

第二に、リリース本文に置かれた注記が重要である。Pactoraはプラットフォームであってリアルアセットを発行するものではなく、発行に必要な許認可と法令対応は発行主体が行う前提とされている。日本でRWAのトークン化を制約しているのは決済レールの技術ではなく、金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等の枠組みと資金決済法である。基盤が整うことと案件が動くことの間には、なお制度上の距離がある。

第三に、エスクローの法的性質は詰めるべき論点として残る。スマートコントラクトが取引成立まで資産を預かる構成をとる場合、その期間の権利の所在、倒産隔離の成否、預託を担うのが誰かという整理が要る。信託銀行が利用主体として想定されているだけに、信託法上の位置づけを含めた検討は避けて通れない。

第四に、金融機関向け基盤の開発にAI駆動開発を用いたことを公表した点は、それ自体が新しい。品質とコストの両立という文脈で語られているが、金融機関が調達側に立つ場合、生成されたコードの監査可能性や責任分界をどう説明するかは、今後この種の調達で共通の論点になっていくとみられる。

用語解説

DvP決済(Delivery versus Payment) 資産の引き渡しと代金の支払いを連動させ、一方が実行されない限りもう一方も実行されない決済方式。証券決済で長く使われてきた考え方で、相手方が履行しないまま自分だけが渡してしまう「元本リスク」を排除するために生まれた。従来は証券保管振替機構や中央銀行といった信頼できる第三者が両者を突き合わせて実現してきたが、ブロックチェーン上では、その役割をプログラムが担う。

アトミック実行(atomic execution) 複数の処理を分割不可能な一かたまりとして扱い、すべて成功するかすべて失敗するかのどちらかにする仕組み。データベースのトランザクション処理と同じ考え方である。ブロックチェーンでは、トークンの移転とステーブルコインの支払いを同一トランザクションに入れることで、片方だけが成立する状態を技術的に発生させない。決済リスクを事後の管理ではなく設計で消す、という発想がここにある。

スマートコントラクトによるエスクロー 売り手と買い手の双方から資産と代金をいったん預かり、条件が揃った時点で同時に相手方へ渡す仕組みを、プログラムとして実装したもの。従来のエスクローでは信託銀行や専門業者が預託者となるが、オンチェーンでは公開されたコードがその役割を果たす。人の判断が介在しない反面、預かっている間の権利が法律上誰に帰属するのかという論点が新たに生じる。

EVM互換(EVM compatibility) Ethereum上で動くスマートコントラクトを、ほぼそのまま実行できる性質。Ethereum向けに書かれたコードや開発ツール、監査手法をそのまま流用できるため、開発コストと検証コストを抑えられる。Avalancheがこれにあたる。互換性がないチェーンでは、同じ機能でも別言語で書き直し、別途監査する必要が生じる。

Canton Network 金融機関向けに設計されたブロックチェーンネットワーク。パブリックチェーンでは取引内容が誰にでも見えてしまうため機関投資家の取引には使いにくいという問題に対し、取引ごとに参加者だけがデータを持つ構造をとることで、公開性とプライバシーを両立させようとしている。ゴールドマン・サックスやBNY、DTCCなど海外の主要金融機関が関与しており、機関投資家向けトークン化の有力な基盤の一つとされる。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-20

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