上院銀行委員会デジタル資産小委員長のルミス議員ら3氏は9月14日、デジタル資産市場クラリティー法の最終案を公表した。民主党の要請による126件の実質的修正を反映し、最大の争点だった倫理条項はティリス・ガジェゴ案を実質的にほぼすべて取り込み、州司法長官に執行上の役割を与える。あわせて、支払型ステーブルコインに起因する預金流出を防ぐ権限を財務長官に新設した。9月15日の討論終結動議で60票に届くかは、なお民主党の対応次第である。
何が起きたか
3氏は9月15日の採決を前に最終案を公表した。1年以上の超党派協議と、民主党の要請による126件の実質的修正を反映したとしている。争点だった倫理規定は、ティリス議員とガジェゴ議員がまとめた対案を実質的にほぼすべて取り込み、州司法長官に執行上の役割を持たせる内容になった。連邦の公選職、判事、その配偶者を対象に、対象者は重大な金銭的利害を売却するか適格ブラインドトラストへ移すことを求められる。AP通信は共和党関係者の話として、トランプ大統領が対案の約8割を受け入れたと伝えている。法案には、支払型ステーブルコインに起因する預金流出を防ぐ権限を財務長官に新設する規定も入った。ルミス氏の発表は、これを地域金融機関を守る遮断装置と説明している。ブロックチェーン規制確実性法の修正により、開発者を資金移動業の登録義務から保護する民事セーフハーバーも置かれた。ステーブルコイン残高への利息・利回りの禁止は維持されている。討論終結が成立すれば、この条文が修正案として提出される。
なぜ重要か
日本の金融機関にとって効くのは倫理条項ではなく、預金流出条項のほうである。ステーブルコインが銀行預金を吸い上げるという懸念に対し、米国は発行体の規制ではなく、当局が流出を止める権限を持つという形で応じた。日本でも三メガバンクによる共同発行が2026年度中を目標に進んでおり、電子決済手段が預金からどれだけ資金を移すかは、調達構造と資金繰りの問題として同じ形で現れる。米国の条文は、その際に検討されうる制度設計の一つの型を示している。利回り禁止が維持された点も、国内で利息類似の経済的便益を付す設計を考える際の参照になる。
注視点
討論終結動議は60票を要し、共和党53議席では民主党から7票以上が必要である。倫理条項の決着が票につながるかは民主党議員総会の判断次第で、成立しなければ中間選挙日程の関係で今会期中の立法は事実上難しくなる。財務長官の権限は、発動要件と手続きが条文上どこまで具体化されているかを確認する必要がある。
用語解説
- 討論終結(クローチャー):上院で審議を打ち切り、次の段階へ進むための手続き。60票を要するため、多数党だけでは成立しない。今回は法案そのものではなく、審議入りの動議に対する採決である。
- 修正案(Amendment in the Nature of a Substitute):既存の法案本文を丸ごと差し替える形式の修正案。今回公表された条文は、討論終結後にこの形で提出される予定とされる。
- 適格ブラインドトラスト:本人が運用に関与せず、第三者に資産の管理を委ねる信託。公職者の利益相反を避ける手段として米国で用いられる。売却と並ぶ選択肢として条文に置かれた。
- 支払型ステーブルコイン:GENIUS法が定義する、決済に用いられる法定通貨連動型のトークン。発行体の規制と利息付与の禁止が同法の柱であり、今回の預金流出条項もこの区分を前提とする。
- ブロックチェーン規制確実性法(BRCA):利用者資産を保管しない開発者を資金移動業の登録義務から除外することを目的とした法案。今回の最終案に修正のうえ取り込まれた。
出典
- ルミス上院議員事務所「Lummis, Boozman, Scott Release Final Clarity Act Text」(2026年9月14日): https://www.lummis.senate.gov/press-releases/lummis-boozman-scott-release-final-clarity-act-text/
- 同上・法案本文PDF(EHF26724): https://www.lummis.senate.gov/wp-content/uploads/EHF26724.pdf
- NADA NEWS「トランプ大統領、クラリティ法案の利益相反規制案を大筋受け入れ=AP」(2026年9月14日): https://www.nadanews.com/367984/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。