米上院は2026年9月15日、暗号資産の市場構造法案(H.R.3633、CLARITY法)の審議入りに向けたクローチャー動議(討論打ち切り動議)を採決したが、可決に必要な60票に届かなかった。報道によれば反対は40票を超え、11月の中間選挙を控えて年内成立はほぼ不可能となった。日本の金融機関にとっての論点は、米国でのカストディやトークン化証券の取扱いが、SEC・CFTC・OCCの規則とGENIUS法の実施に依拠し続ける点である。公式の最終票数と、議会指導部が再採決を試みるかが次の焦点となる。
何が起きたか
採決は下院通過済み法案の審議入りを問う手続き上のもので、法案の可決そのものではない。共和党は53議席で、全員が賛成しても民主党・無所属から少なくとも7票が必要だった。CoinDeskは上院の議場中継の非公式集計をもとに、40人超が反対し動議は成立しなかったと報じた。議会記録の最終票数は本稿執筆時点で未確認である。
直前まで条文交渉は続いた。共和党のルミス、ブーズマン、スコット各議員は採決前々日の夜に「最終案」として代替条文を公表し、ルミス議員事務所は民主党の要望に基づく126項目の実質的修正を反映したと説明した。公職者とその配偶者によるデジタル資産の発行を禁じる倫理規定は、司法長官に加えて一定条件で州司法長官も執行できる内容とされ、ステーブルコインの報酬提供で地域銀行から重大な預金流出が生じた場合に財務長官が制限規制を導入できる仕組みも加わった。民主党側は採決前夜に対案を送付したと報じられている。
同法案は2025年7月に下院を294対134で通過し、上院銀行委員会は2026年5月14日に15対9で可決していた。
なぜ重要か
法案が止まったことで、どのトークンがSECの証券でどれがCFTC管轄の商品かという線引きは、当局の規則と裁判例に委ねられたままになる。米国でデジタル資産のカストディや取引仲介を検討する邦銀・証券にとっては、法律による安定した区分を前提にした事業計画が立てにくい状況が続く。規則は政権交代で変わり得るため、米国事業のリーガル・リスク評価は「規則ベース」の前提で組み直す必要がある。他方、ステーブルコインはGENIUS法で既に法制化済みで、発行・準備資産の規律はOCCなどの規則整備で進む。預金流出を巡る論点は法案から消えるわけではなく、銀行規制当局の規則や監督の場に移るとみられる。
注視点
議会記録による公式の票数と、指導部が再採決の余地を残したかを確認する必要がある。当局側では、OCCのGENIUS法申請様式の意見締切(9月25日)、SECの暗号資産規則案の意見締切(10月20日)が近い。2027年以降の再提出で今回の最終案が土台になるかは不透明である。
進捗段階
規制トラック:⓪(上院での審議入りに失敗。2026年会期中の再浮上は困難とみられる)
用語解説
- クローチャー動議:上院で討論を打ち切り、採決に進むための手続き。成立には通常60票が必要で、少数党による議事妨害(フィリバスター)を越える関門として機能する。
- 審議入り動議(motion to proceed):法案を本会議の審議対象に載せるための動議。今回のクローチャーはこの動議に対するもので、通れば修正審議と最終採決に進む予定だった。
- 市場構造法:暗号資産の取引所・ブローカー・発行者に対する登録制度や、SECとCFTCの管轄の線引きを定める法律の総称。株式市場でいう証券取引所法に相当する土台を作る狙いがある。
- GENIUS法:2025年7月に成立した米国の決済用ステーブルコイン法。発行体の認可、準備資産の構成、償還義務を定め、現在は各当局が施行規則を整備している。
出典
- CoinDesk「Live updates: Clarity Act fails in Senate」(2026年9月15日): https://www.coindesk.com/business/2026/09/15/live-updates-bitcoin-slides-from-nearly-usd80-000-as-senate-votes-on-clarity-act
- CNBC「Senate cloture vote on Clarity Act fails」(2026年9月15日): https://www.cnbc.com/2026/09/15/senate-cloture-vote-on-clarity-act-fails-dealing-regulatory-setback-to-crypto-industry.html
- The Crypto Times「Senate Tests CLARITY Act at 2:15 p.m. ET」(2026年9月15日): https://www.cryptotimes.io/2026/09/15/senate-tests-clarity-act-at-215-p-m-et-what-todays-cloture-vote-can-change-and-what-it-cannot/
- あたらしい経済「米暗号資産市場構造巡る『CLARITY法案』、上院で9/15に重要採決へ」(2026年9月14日): https://www.neweconomy.jp/posts/607578
- The Block「Majority Leader Thune files cloture on Clarity Act」(2026年8月8日): https://www.theblock.co/news/regulation/2026-08-08-majority-leader-thune-files-cloture-on-clarity-act-setting-up-sept-15-senate-vote-411211
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。