ブラックロックは2026年9月10日、香港ドル建てMMF「BlackRock HKD Digital Liquidity Fund」が香港証券先物委員会(SFC)の認可を得たと発表した。ステーブルコイン「HKDAP」やトークン化預金で申込・償還でき、個人にも固定基準価額(CNAV)で提供する同社のアジア太平洋初のトークン化商品となる。日本の信託銀行・運用会社にとっては、受託からトークン化までを一行が担う役割設計と、円建てで同種商品を組む際の法制上の課題が論点になる。運用開始日は公表されていない。
何が起きたか
ファンドは政府短期証券や預金など、高格付けの短期香港ドル建て金融商品に投資する。口数はトークン化口と非トークン化口の双方を用意し、法定通貨と「デジタル・キャッシュ」の両方で申込・償還を受け付ける。デジタル・キャッシュは、トークン化預金と、香港のステーブルコイン条例に基づき同局の免許を受けた発行体の法定通貨連動型ステーブルコインと定義されている。
具体的に名前が挙がったのが、スタンダードチャータード主導の合弁会社Anchorpoint Financialが発行するHKDAPである。スタンダードチャータードはHKDAPの販売銀行として初の商業利用となるほか、本ファンドのカストディアン、ファンド事務管理者、受託者を務め、トークン化の実務も担う。
ブラックロックは、本ファンドが同社のトークン化MMF群に加わり、米国・欧州・アジア太平洋に広がると説明した。香港籍MMFとして機関投資家と個人投資家の双方にCNAVで提供するのは初めてだという。分配型クラスは市場ストレス時にCNAVを維持できない可能性や、解約手数料・解約制限の発動があり得ると開示している。
なぜ重要か
これまでのトークン化MMFは米ドル建てで、適格投資家向けの私募が中心だった。今回は現地通貨建てで、個人を含む公募型の認可を得た点が新しい。現地通貨建てのステーブルコインやトークン化預金が増えれば、保有者は為替リスクを取らずに待機資金を運用したくなる。その受け皿としてのMMFという需要構造がはっきりしてきた。日本に置き換えると、円建てステーブルコインやトークン化預金の残高が積み上がった段階で、信託銀行・運用会社が同種商品を設計することになる。その際は、投資信託の受益権をブロックチェーン上で移転する法的整理、ステーブルコインによる払込みの可否、受託銀行が発行基盤まで担う場合の利益相反管理が論点になる。
注視点
運用開始日、最低投資額、トークンを記録するブロックチェーンは発表資料に記載がない。HKDAP以外にどの発行体のステーブルコインやトークン化預金を受け入れるか、香港金融管理局の「Project Ensemble」との接続がどこまで進むかも焦点となる。
進捗段階
実装トラック:①当局認可済み・運用開始前(本番の資金フローは未確認)
用語解説
- MMF(マネー・マーケット・ファンド):短期国債や預金など、満期が短く信用度の高い資産で運用する投資信託。企業や金融機関の待機資金の置き場として使われる。
- CNAV(固定基準価額):1口あたりの基準価額を一定に保つよう運営する方式。償却原価法で評価するため、市場ストレス時には時価との乖離が問題になる。
- HKDAP:スタンダードチャータード、HKT、Animoca Brandsの合弁Anchorpoint Financialが発行する香港ドル連動型ステーブルコイン。同社は2026年4月に香港初のステーブルコイン発行体免許を取得した2社の一つである。
- Project Ensemble:香港金融管理局が進めるトークン化の実証・実装プログラム。トークン化預金を用いた銀行間決済と、トークン化資産の取引を結びつける基盤づくりを目指している。
出典
- BlackRock「BlackRock receives approval for first tokenized MMF in Hong Kong」(2026年9月10日): https://www.blackrock.com/cash/en-hk/press-release-t2
- Ledger Insights「BlackRock approved for first tokenized fund in Hong Kong, including retail」(2026年9月15日): https://www.ledgerinsights.com/blackrock-approved-for-first-tokenized-fund-in-hong-kong-including-retail/
- Hong Kong Monetary Authority「Regulatory Regime for Stablecoin Issuers」(2026年7月13日更新): https://www.hkma.gov.hk/eng/key-functions/international-financial-centre/stablecoin-issuers/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。