金融庁は2026年9月15日、「2026事務年度金融行政方針」を公表し、内閣官房が7月に策定した「成長投資を促進するための金融戦略」を別添とした。要点資料は、方針が金融戦略との重複を避けて補完項目中心に作られたと明記しており、ステーブルコインやトークン化の制度点検は金融戦略側に置かれている。金融機関にとっての論点は、行政方針の個別記述ではなく金融戦略の工程が今事務年度の監督・制度作業の実質になる点である。本体PDFの記述と、官民ロードマップの公表時期が次の焦点となる。
何が起きたか
金融庁は9月15日、2026事務年度(2026年7月〜2027年6月)の重点課題をまとめた金融行政方針を公表した。公表資料は本体、主なポイント、別添の金融戦略(本文・概要)で構成される。
主なポイントは6項目で、筆頭は7月策定の金融戦略に掲げた施策の具体化・実行であり、その中に「金融インフラへの投資の促進」が含まれる。暗号資産関連では、暗号資産交換業者等について、安全な取引環境の整備に向けたモニタリングと無登録業者への対応に取り組むとした。新しい金融サービスの提供動向もモニタリング対象に挙げた。要点資料の末尾には、本方針は金融戦略との重複を避け、補完が必要な項目を中心に作成したとの注記がある。
別添の金融戦略は、オンチェーン金融の社会実装に向け、官民連携でのロードマップ作成や決済高度化プロジェクト(PIP)を通じたユースケース拡大支援を掲げる。あわせて、①ステーブルコインの制度的枠組み、②様々な資産のトークン化に関する制度、③分散型取引所(DEX)などDeFiやウォレット提供業者のリスク低減策、の3点を点検・検討するとしている。
なぜ重要か
行政方針の要点だけを読むと、暗号資産は「交換業者の監視」という守りの論点にとどまって見える。しかし実際の構図は逆で、攻めの論点であるステーブルコイン・トークン化預金の実装環境整備やトークン化制度の点検は、金融戦略という政府全体の文書に格上げされて別添に入った。銀行・信託・証券の企画部門は、行政方針ではなく金融戦略の工程表を自社計画の基準に置く必要がある。一方で、監督の現場では、新サービスの提供状況が横断的モニタリングの対象として明記された。トークン化預金やステーブルコイン取扱いを始める金融機関は、ヒアリングで説明を求められる前提で態勢を整えておくべきだろう。
注視点
第一に、本稿は本体PDFの本文を確認できておらず、本体にオンチェーン金融の個別記述があるかは未確認である。第二に、官民ロードマップの策定時期と、PIPの採択案件の拡大が具体的な節目になる。第三に、トークン化制度の点検が金融審議会への諮問に進むかが、法改正の時期を左右する。
進捗段階
規制トラック:①方針表明(政府戦略への位置づけ済み、制度点検は未着手の段階とみられる)
用語解説
- 金融行政方針:金融庁が事務年度ごとに重点課題と取り組み方針を示す文書。監督・検査の優先順位を事前に示すことで、金融機関との対話の土台とする。2015年から毎年公表されている。
- 成長投資を促進するための金融戦略:内閣官房(日本成長戦略本部事務局)が2026年7月に策定した包括的な施策パッケージ。「資産運用立国」の取組を発展させる位置づけで、オンチェーン金融の推進を柱の一つに含む。
- 決済高度化プロジェクト(PIP):金融庁が実証実験を支援する枠組み。新しい決済手段の実証で生じる法令解釈上の論点を当局と事業者が共同で整理し、本番移行の障害を早期に取り除くことを狙う。
- 無登録業者:資金決済法上の登録を受けずに暗号資産交換業などを営む事業者。利用者保護の枠外にあるため、金融庁は警告書の発出や公表で注意喚起を行っている。
出典
- 金融庁「2026事務年度金融行政方針について」(2026年9月15日): https://www.fsa.go.jp/news/r8/202609/260915.html
- 金融庁「2026事務年度 金融行政方針 主なポイント」(2026年9月15日): https://www.fsa.go.jp/news/r8/202609/strategic_priorities_2026_point.pdf
- 内閣官房「成長投資を促進するための金融戦略(概要)」(2026年7月): https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kinyu/pdf/financialservicesstrategy2026overview.pdf
- 内閣官房「成長投資を促進するための金融戦略」(2026年7月21日): https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kinyu/pdf/financialservicesstrategy2026.pdf
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。