英国貴族院は9月10日、金融サービス市場法案の報告段階で、HM財務省にデジタル資産戦略の策定・公表・意見募集を義務づける修正第88号を194対138で可決した。提出は保守党のネビル・ロルフ議員。法案成立から12カ月以内に、暗号資産・ステーブルコイン・トークン化証券を対象とする戦略の策定を求める。戦略にはイノベーション促進、消費者保護、関連事業者の銀行・決済サービスへのアクセス改善を盛り込む。労働党政権は反対した。修正は法律として確定しておらず、9月15日の第三読会を経て下院に差し戻される。
何が起きたか
修正案は、デジタル資産規制を個別に積み上げる現在の進め方ではなく、一体の戦略として示すことを政府に求める内容である。労働党政権は、市場の変化の速さや規制枠組みの一貫性の観点から法的義務になじまないとして反対したが、採決では賛成が上回った。英国暗号資産ビジネス評議会は修正案の検討に関与したとし、ホームズ議員が示した「デジタル資産を規制するだけなのか、デジタル資産経済を築くのか」という問いを引用して歓迎する姿勢を示している。英国ではFCAが2026年6月に暗号資産の規制枠組みを確定し、制度の施行は2027年10月25日、事業者向けの認可ゲートウェイは9月30日に開設して2027年2月28日まで受け付ける日程が敷かれている。
なぜ重要か
日本の金融機関にとって、この動きは英国拠点の事業計画の前提に関わる。認可ゲートウェイの受付が始まる直前に、上院が「規制はできたが戦略がない」と突きつけた形であり、制度の運用方針が今後さらに動く余地があることを示している。英国で暗号資産関連業務を検討している場合、認可申請の準備と並行して、政策の方向性が固まりきっていない点を織り込む必要がある。もうひとつ実務に直結するのは、修正案が明示的に挙げた「関連事業者の銀行・決済サービスへのアクセス」である。これはデジタル資産事業者の口座開設が拒まれる、いわゆるデバンキングの問題を指しており、日本の銀行が英国拠点で暗号資産関連先の口座を扱う際の判断基準にも影響しうる。ただし戦略の中身はまだ存在せず、現時点で具体的な対応を要する段階ではない。
注視点
修正が法的義務になるかどうかは、下院が貴族院の修正を受け入れるか、修正するか、否決するかで決まる。政府が反対している以上、下院段階で削除される可能性は小さくない。9月15日の第三読会以降の手続きと、国王裁可の時期が当面の焦点になる。なお本記事は議会記録そのものには到達しておらず、採決結果と修正番号は複数の報道の突き合わせによる。
用語解説
- 報告段階(Report Stage):英国議会で委員会審査の後に本会議で法案全体を再検討する段階。この段階で修正案の採決が行われ、その後に第三読会が続く。
- 金融サービス市場法案:英国の金融規制の枠組みを定める法案。今回の修正はこの法案に付加される形で提出された。
- 認可ゲートウェイ:新しい規制のもとで事業を続けようとする事業者が、当局に認可申請を行うための受付期間。期間内に申請しなければ、施行後は無認可となる。
- デバンキング:銀行が特定業種の事業者に対し口座開設や取引継続を拒む問題。暗号資産関連事業者ではマネロン対策上の負担を理由に起きやすく、各国で政策論点になっている。
出典
- Cryptobriefing「UK House of Lords backs mandatory digital asset strategy」(2026年9月11日): https://cryptobriefing.com/uk-lords-mandatory-digital-asset-strategy/
- Bitcoin Magazine「Government Defeated As Lords Back UK Digital Assets Strategy」(2026年9月11日): https://bitcoinmagazine.com/news/house-of-lords-backs-uk-crypto-bill
- DigitalToday「UK House of Lords passes amendment grouping crypto, stablecoins and tokenised assets」(2026年9月12日): https://www.digitaltoday.co.kr/en/view/102515/uk-house-of-lords-passes-amendment-to-group-crypto-stablecoins-tokenisation
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。