タイ証券取引委員会(SEC)は9月12日、監督下のデジタル資産事業者を経由するステーブルコインの送受金に関する規制原則について意見募集を開始した。顧客本人以外の名義の口座・ウォレットとの送受金を禁じ、外部宛の送受金には1日あたり500万バーツ(約2,324万円)の上限を設ける。国内事業者間の顧客口座の移動はこの上限の対象外だが、送金元・送金先の双方にトラベルルールの適用を求める。マネーロンダリング、サイバー犯罪、国際送金規制の回避を防ぐことが目的とされる。意見募集は9月25日まで。
何が起きたか
SECは、監督下の事業者を通じた投資家のステーブルコイン取引データを継続的に分析してきたとしており、今回の原則はその結果を踏まえたものと説明されている。規制の対象は送受金だけでなく、事業者のプラットフォーム外での取引、マーケットメイカーや流動性提供者が関与する場合の取扱い、事業者が利用する外部の取引所(ソース・エクスチェンジ)の選定にも及ぶ。事業者が求められた対応を取らない場合、SECが監督上必要な情報を得るために作為・不作為を命じうるとされている。意見募集はSECのウェブサイトと法令の中央システムで受け付けられ、締切は9月25日。原則の確定後に規則の改正が行われる見込みである。円換算は1バーツ=4.6473円(2026年9月14日時点の市場レート)で筆者が算出した。なお本記事はタイ語媒体の報道に依拠しており、意見募集文書の原文には到達していない。
なぜ重要か
日本の金融機関にとっての含意は二つある。ひとつは、ステーブルコイン規制の重心が発行体の健全性から利用者の送金経路の管理へ広がっている点である。日本の資金決済法は電子決済手段等取引業者にトラベルルールと本人確認を課しているが、第三者名義宛の送金を一律に禁じ、金額上限を設ける形の規制は取っていない。タイの設計は、国境をまたぐ送金の実質的な代替としてステーブルコインが使われている実態を前提にしており、同じ問題意識は日本でも共有されうる。もうひとつは、東南アジアで送金・決済事業を展開する日本企業への直接の影響である。タイの事業者を経由するフローに本人名義制限と金額上限が入れば、法人顧客の資金移動や現地子会社との決済フローの設計を組み直す必要が生じる可能性がある。
注視点
確定した規則の適用範囲と施行時期はまだ示されていない。特に、500万バーツの上限が法人顧客にも一律に適用されるのか、事業者間の移動をどの範囲まで「国内」と扱うのかが、実務上の影響を左右する。また、規制がSEC監督下の事業者を経由する取引に限られる以上、規制外の経路へフローが移る余地が残る。この規制が実際にどこまで捕捉できるかは、施行後の観察を待つほかない。
用語解説
- タイSEC(ก.ล.ต.):タイの証券取引委員会。同国ではデジタル資産事業者の免許付与と監督をSECが担っており、暗号資産取引所や仲介業者が監督対象となる。
- トラベルルール:暗号資産の移転時に、送金人・受取人の情報を事業者間で受け渡すことを求める国際的なマネロン対策基準。FATFの勧告に基づき各国が制度化している。
- ソース・エクスチェンジ:事業者が顧客注文を執行するために利用する外部の取引所。自社板の外に流動性を求める仕組みで、選定基準と管理責任が監督上の論点になる。
- 第三者名義送金:本人以外の名義の口座やウォレットとの資金移動。マネーロンダリングや詐欺被害金の移転に使われやすく、規制上は禁止または厳格な確認の対象とされることが多い。
出典
- Manager Online「ก.ล.ต. คุมเข้ม stablecoin สกัดฟอกเงิน-อาชญากรรมไซเบอร์-โอนเงินข้ามประเทศ เคาะลิมิตโอนได้ไม่เกิน 5 ล้านบาท/วัน」(2026年9月12日): https://mgronline.com/stockmarket/detail/9690000089383
- Money & Banking Magazine「ก.ล.ต.คุมเข้ม Stablecoin อุดช่องฟอกเงิน อาชญากรรมไซเบอร์ โอนเงินข้ามประเทศ」(2026年9月12日): https://moneyandbanking.co.th/2026/269722/
- ThaiPR.NET「คณะกรรมการ ก.ล.ต. เห็นชอบหลักการยกระดับการกำกับดูแลการทำธุรกรรม stablecoin ผ่านผู้ประกอบธุรกิจสินทรัพย์ดิจิทัล」: https://www.thaipr.net/finance/3756897
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