米国の大手銀行が所有する決済事業者The Clearing House(TCH)の幹部は、9月末のSibosで、同社のトークン化預金網の初期用途を複雑な国際送金と企業のトレジャリー管理とする考えを示した。網は2027年上期に参加金融機関へ提供を始める予定で、各行の預金トークンをつなぐ設計である。邦銀の用途設計の比較材料になるが、もう一方の柱であるレイヤー2のブロックチェーンは提供者も時期も未定である。
何が起きたか
TCHは6月、トークン化預金の銀行間の清算・決済を担う「On-Chain Money Initiative」を発表した。9月24日には、相互運用、処理の統括、取引管理の機能をQuantが提供すると公表した。網は、TCHが運営する即時決済網RTPと大口決済網CHIPSにもつながる。Ledger Insightsの報道によれば、デビッド・ワトソン社長兼CEOは9月30日のSibosでのインタビューで、取り組みは二本立てだと説明した。1つは2027年上期に始まるQuantの網、もう1つはレイヤー2のブロックチェーンである。共通のトークンを発行するのではなく、各行が個別に持つトークン化預金の基盤をつなぐ設計だという。ワトソン氏は、TCHが1日に決済する2兆2,500億ドル(約355兆円)のうち8割超が国際取引だとも述べた。トークン化預金の商用化を率いるリーナ・ヴァーマ氏はパネル討論で、導入の主な動機はプログラマビリティにあると述べた。初期用途には複雑な国際送金とトレジャリー管理を挙げた。国際送金では、複数の条件とコルレス銀行の連鎖が絡む処理を自動化できるとしている。
なぜ重要か
国内では、3メガバンクの共同ステーブルコインが2026年度中の実取引を目指し、ゆうちょ銀行などがトークン化預金の発行を準備している。用途として語られることが多いのは、証券決済や企業間の支払いである。TCHは、自らの決済額の大半を占める国際取引を最初の対象に選んだ。銀行が既に収益を得ている業務の効率化から入るという判断であり、新しい市場をつくるより導入の理由を説明しやすい。邦銀にとっては、外為・コルレス業務のどこにプログラマビリティが効くのかを具体的に洗い出す必要がある。米大手行の網が先に国際送金の標準を握れば、邦銀は自らの基盤をそれに接続する立場に回る可能性がある。
注視点
提供開始時の参加行の数と顔ぶれ、Swiftの共有台帳との関係、レイヤー2の提供者と時期が次の公表事項になる。ステーブルコインとの役割分担についてワトソン氏は、用途ごとに決済網が使い分けられるとの見方を示している。
進捗段階
実装トラック ⓪(開発段階。技術提供者を選定済みで、参加金融機関への提供開始は2027年上期の予定)
用語解説
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トークン化預金:銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして表したもの。発行した銀行の負債であり、預金保険や規制上の扱いは通常の預金と変わらない。ステーブルコインと違い、利用者は発行銀行に対する預金債権を持ち続ける。
- 英:tokenized deposit / 用例:A tokenized deposit remains a liability of the bank that issued it. (トークン化預金は、それを発行した銀行の負債であり続ける)
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相互運用性(インターオペラビリティ):異なる銀行や基盤が発行したトークンを、互いにやり取りできるようにする性質。各行が別々の台帳を持つと、送金のたびに個別の接続が必要になる。TCHの網は、この接続を共通の仕組みで引き受けることを狙っている。
- 英:interoperability / 用例:Interoperability lets deposit tokens from different banks settle with each other. (相互運用性があれば、異なる銀行の預金トークン同士で決済できる)
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コルレス銀行:自行が直接拠点を持たない国や通貨での送金を、代わりに中継・決済する銀行。国際送金では複数のコルレス銀行を経由するため、時間と手数料がかかり、資金の所在も追いにくい。トークン化はこの連鎖の処理を自動化する手段として期待されている。
- 英:correspondent bank / 用例:Each correspondent bank in the chain adds time and cost to a cross-border payment. (経由するコルレス銀行が増えるほど、国際送金には時間と費用がかかる)
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プログラマビリティ:お金の動きに条件や手順を組み込み、条件が満たされたときに自動で実行させる性質。条件付きの支払いや、複数の当事者を経る処理を人手を介さずに進められる。TCHはこれを導入の主な動機に挙げている。
- 英:programmability / 用例:TCH cited programmability as the main reason banks want tokenized deposits. (TCHは、銀行がトークン化預金を求める主な理由としてプログラマビリティを挙げた)
出典
- The Clearing House「Major Financial Institutions Unveil Bank-Led On-Chain Money Initiative」(2026年6月): https://www.theclearinghouse.org/payment-systems/Articles/2026/06/Major-Financial-Institutions-Unveil-Bank-Led-On-Chain-Money-Initiative
- The Clearing House(Markets Media転載)「The Clearing House, Quant Partner to Advance Onchain Money」(2026年9月24日): https://www.marketsmedia.com/?p=158379
- Ledger Insights「At Sibos, The Clearing House CEO maps out tokenized deposit architecture」(2026年10月1日): https://www.ledgerinsights.com/at-sibos-the-clearing-house-ceo-maps-out-tokenized-deposit-architecture/
- Ledger Insights「The Clearing House targets cross border and treasury as first tokenized deposit use cases」(2026年10月6日): https://www.ledgerinsights.com/the-clearing-house-targets-cross-border-and-treasury-as-first-tokenized-deposit-use-cases/
※円換算は筆者計算。1ドル=157.96円(三菱UFJ銀行、2026年10月6日公示仲値)。
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。