米上院の常設調査小委員会で民主党側を率いるブルーメンソール議員は2026年9月28日、Tetherが発行するUSDTがイランの制裁逃れの資金網で中心的な役割を果たしたとする報告書を公表した。米財務省とイスラエル当局が指定した846のウォレットのうち84%が、ほぼUSDTだけで取引していたとした。凍結が遅れた例も挙げ、財務省と司法省に調査を求めた。日本の金融機関にとっては、ステーブルコインの発行や仲介に伴う監視と凍結の責任が論点となる。Tetherは反論しており、当局が調査に動くかは未定である。
何が起きたか
報道によれば、報告書は2021年6月から2026年8月までに、米財務省外国資産管理室(OFAC)やイスラエルのテロ資金対策当局が指定した846のウォレットを分析した。全体の84%はUSDTだけか、ほぼUSDTだけで取引していた。イスラエル指定の757では87%、OFAC指定の101では57%だった。報告書は、Tetherが2024年より前には凍結を包括的かつ一貫して行っていなかったと指摘した。例として、イスラエルが2023年6月に指定した39のウォレットのうち、Tetherが当初凍結したのは5つだけで、残る34は2024年3月まで凍結されなかった。その間に3,460万ドル(約54.5億円)のUSDTがこれらのウォレットから移されたという。同議員は財務省と司法省に法令違反の可能性の調査を求め、10月9日までの回答を要請した。Tetherは同日、この1年でイラン関連の約5億5,000万ドル(約867億円)の凍結を支援したと反論し、当局と日常的に連携していると説明した。円換算は筆者が1ドル=157.60円(9月28日NY終値)で計算した。
なぜ重要か
ステーブルコインの発行体は、スマートコントラクトの機能で特定のウォレットの資金を凍結できる。口座凍結に近い機能だが、どの情報でどれだけ速く凍結するかは発行体の判断に委ねられてきた。報告書は、制裁の指定がなくても不正の疑いが強いウォレットには対応すべきだったと主張する。報道によれば、米国のGENIUS法は2027年1月から、法令に基づく命令で資産を凍結できない海外の発行体のコインを、国内の事業者が扱うことを禁じる。日本では電子決済手段の発行者と仲介業者に本人確認と取引の監視が義務づけられ、海外のドル建てコインを扱う仲介業者にも責任が及ぶ。国内の銀行や信託が円建てのコインを発行する場合も、凍結の判断基準と速さを説明できるようにしておく必要がある。
注視点
第一に、10月9日を期限とする財務省と司法省の回答。第二に、GENIUS法の下で、海外の発行体の凍結能力をどう評価するかを定める規則。第三に、民主党側だけの報告書が、議会の超党派の動きにつながるかである。
進捗段階
⓪ 検討・研究(制度系)
議会の小委員会の少数派による調査報告で、法的な拘束力はない。財務省や司法省が調査を始めたかも確認できない。①に進むには、当局の規則案などで、発行体の凍結の義務や基準が具体的に示される必要がある。
用語解説
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OFAC(米財務省外国資産管理室):米国の経済制裁を運用する財務省の部局。制裁対象の個人や団体、暗号資産のアドレスを指定し、米国の人や企業にその資産との取引を禁じる。米ドル建てのステーブルコインの発行体は、この指定への対応を強く求められる。
- 英:Office of Foreign Assets Control (OFAC) / 用例:Only 57% of the wallets on OFAC's list transacted mainly in USDT. (OFACの指定リストにあるウォレットでは、主にUSDTで取引していたのは57%だった)
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ウォレットの凍結:ステーブルコインの発行体が、スマートコントラクトの機能を使って特定のアドレスの資金を動かせなくすること。銀行の口座凍結に相当する。公開型のチェーン上でも、発行体が中央で管理する機能を残しているからこそ可能になる。
- 英:wallet freeze / 用例:Tether froze only five of the 39 wallets flagged in June 2023. (Tetherは、2023年6月に指定された39のウォレットのうち5つしか凍結しなかった)
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影の金融網:正規の銀行制度の外で、資金の送金や決済を担う仕組みの総称。制裁を受けた国や団体が、国際的な銀行網を使えない代わりに利用する。ドル建てのステーブルコインは、ドルを持てる手段としてこの網に組み込まれやすい。
- 英:shadow banking network / 用例:The report calls USDT a lifeline within Iran's shadow banking network. (報告書は、USDTをイランの影の金融網の命綱と表現している)
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少数派スタッフ報告書:米議会の委員会で、多数派ではない党の議員とそのスタッフがまとめた調査報告。委員会全体の公式な見解ではないが、公聴会や立法の議論のきっかけとなる。今回は民主党側が作成した。
- 英:minority staff report / 用例:As a minority staff report, it does not carry the full committee's endorsement. (少数派スタッフ報告書であるため、委員会全体の承認を得たものではない)
出典
- The Block「Tether's USDT at center of Iran's shadow banking network, new Senate Report says」(2026年9月28日): https://www.theblock.co/news/regulation/2026-09-28-tethers-usdt-center-iran-shadow-banking-network-new-senate-report-says-417094
- Unchained「Sen. Blumenthal Urges Treasury and DOJ to Investigate Tether Over Iran's Use of USDT」(2026年9月28日): https://unchainedcrypto.com/sen-blumenthal-urges-treasury-and-doj-to-investigate-tether-over-irans-use-of-usdt/
- American Banker「Why Tether's Iran problem is a bank partner problem」(2026年9月): https://www.americanbanker.com/news/why-tethers-iran-problem-is-a-bank-partner-problem
- CoinDesk「Tether is a 'lifeline' for Iranian regime, Senate Dems say in new report」(2026年9月28日): https://www.coindesk.com/policy/2026/09/28/tether-is-a-lifeline-for-iranian-regime-senate-dems-say-in-new-report
- 財経新聞(フィスコ)「9月28日のNY為替概況」(2026年9月29日): https://www.zaikei.co.jp/article/20260929/871497.html
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。