NEWSグローバル実装①実証実験(PoC)2026-09-24

サウジ中銀、多国間CBDC基盤「mBridge」からの離脱が判明──参加から1年足らず、公表まで16か月

ドル以外で国境を越える決済網は、技術よりも参加国の顔ぶれで性格が決まる。主要産油国の中央銀行が静かに抜けていたことが、1年以上たって明らかになった。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

英フィナンシャル・タイムズは2026年9月20日、サウジアラビア中央銀行(SAMA)が、中国、香港、タイ、UAEの中央銀行が参加する多国間の中央銀行デジタル通貨(CBDC)基盤mBridgeから離脱していたと報じた。SAMAは同紙への声明で、計画どおり2025年5月13日に概念実証を終え、その後は参加メンバーではないと説明した。日本の金融機関にとっては、ドル以外の越境決済網の拡大が地政学的な制約を強く受けることを示す事例となる。離脱の理由は計画どおりと説明されているが、背景は明らかでない。

何が起きたか

各紙が伝えるSAMAの声明によると、同行は計画どおり2025年5月13日にmBridgeの概念実証を完了し、それ以降は参加メンバーではない。SAMAは2023年にオブザーバーとなり、2024年6月に正式な参加者となっていた。離脱は当時公表されず、今回の報道まで約16か月にわたり知られていなかった。同紙によれば、関係者の一人は参加が限定的だったことから広い推論をするのは不正確だと述べ、別の関係者はサウジが目立たない形で関与を続けているとした。mBridgeは国際決済銀行(BIS)のイノベーション・ハブが2021年から4つの中央銀行と開発してきたが、BISは2024年10月に運営から手を引き、参加中央銀行に引き継いだ。専門メディアによれば、2025年を通じて取引量の約95%をデジタル人民元が占めた。

なぜ重要か

多国間のCBDC基盤は、参加国が増えるほど使い道が広がるが、同時に参加国の政治的な立場が基盤の性格を決める。取引の大半を一つの通貨が占め、制裁回避の手段になりうると米国が警戒するなかで、主要産油国が抜けた意味は小さくないとみられる。一方で、SAMAは概念実証の完了にともなう計画どおりの離脱だと説明しており、政治的な判断と断定する材料はない。日本の金融機関にとっての実務上の含意は、越境決済の新しい基盤を評価する際、技術の成熟度と並んで、参加する中央銀行や運営主体の構成と、それが制裁規制の順守に与える影響を見る必要があるという点にある。日本銀行も参加するBISのプロジェクト・アゴラのように、既存の銀行間の枠組みを前提とする越境決済の試みとの違いもそこにある。

注視点

mBridgeに新たな中央銀行が加わるか、既存の参加国の取引量がどう推移するかが焦点である。サウジが今後、別の越境決済の枠組みにどう関わるかも注目される。米国の制裁政策がこうした基盤への参加判断にどう影響するかも見ておきたい。

進捗段階

実装トラック:対象外(既存基盤からの参加国の離脱)

用語解説

  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC):中央銀行が発行するデジタル形式の通貨。個人が使うリテール型と、金融機関どうしの大口決済に使うホールセール型がある。mBridgeは後者を国境を越えてやり取りする仕組みである。

    • 英:central bank digital currency (CBDC) / 用例:mBridge lets participating central banks settle cross-border payments in CBDC. (mBridgeは、参加する中央銀行が国境を越える支払いをCBDCで決済できるようにする)
  • 概念実証:新しい仕組みが技術的・業務的に成り立つかを、限られた範囲で確かめる試験。本番運用とは異なり、終了後にそのまま参加や採用を続けるとは限らない。SAMAは離脱をこの完了によるものと説明した。

    • 英:proof of concept (PoC) / 用例:SAMA said its exit followed the planned completion of a proof of concept. (SAMAは、離脱は計画どおりの概念実証の完了によるものだと述べた)
  • 多国間CBDC基盤:複数の国の中央銀行が一つの共通の台帳でそれぞれのCBDCを発行し、直接交換・決済できる仕組み。コルレス銀行を経由する従来の送金より速く安くなりうるが、運営ルールを誰が決めるかという統治の問題を抱える。

    • 英:multi-CBDC platform / 用例:A multi-CBDC platform needs shared governance among its central banks. (多国間CBDC基盤には、中央銀行どうしの共同の統治が必要になる)
  • デジタル人民元:中国人民銀行が発行するCBDC。国内での実証を重ねてきたほか、mBridgeでも取引の大半を占めてきた。人民元の国際利用を広げる手段としても位置づけられている。

    • 英:e-CNY / 用例:The e-CNY accounted for most of the value settled on the platform. (デジタル人民元は、同基盤で決済された金額の大半を占めた)

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-24

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