HSBCは9月30日、香港ドル建てステーブルコインの名称を「HSBC RedCoin」にすると発表した。発行は2026年下期の予定で、当初は約330万人が使う決済アプリ「PayMe」と香港のモバイルバンキングアプリだけで提供し、個人間送金と加盟店決済から始めて法人・機関向けに広げる。日本の銀行にとっては、円建てステーブルコインの用途と配布経路を設計するうえで、自行アプリ内から始める方式の実例になる。現時点では未発行で、発行日や取引所での取り扱いの有無は示されていない。
何が起きたか
報道によると、RedCoinは香港ドルと1対1で連動し、分別管理した流動性の高い資産で全額を裏付ける。HSBCは2026年4月、香港金融管理局(HKMA)から香港で最初のステーブルコイン発行ライセンスを受けた2社の1つで、もう1社はスタンダードチャータード主導の合弁会社Anchorpointである。専門メディアLedger Insightsによれば、当初の構想では、自行の顧客基盤の中での個人間送金、加盟店決済、トークン化された投資商品の購入の3つを用途としていた。今回の発表では投資商品の購入が外れ、代わりに法人・機関向けの取引が加わった。同誌は、投資商品の用途には証券先物委員会(SFC)の別の承認が必要だった可能性を指摘している。同時に公表した香港の顧客1,060人への6月の意識調査では、74%が少なくとも1つの用途を挙げた一方、政府の発行と誤解する回答者も一定数いた。
なぜ重要か
銀行がステーブルコインを発行する場合、何に使わせるか、どこで配るかという設計が、法的な位置づけと同じくらい重要になる。HSBCは、すでに数百万人が使う自行の決済アプリに載せ、日常の支払いから始める方式を選んだ。日本の3メガバンクが2026年度中に実取引を始めるとしている円建てステーブルコインは、商社の国際決済を想定した法人向けから入る。PayPayやau PAYなどのQR決済が普及した日本では、銀行が個人向けの決済で存在感を示すのは難しい。香港の事例は、個人向けと法人向けのどちらから入るかという選択を、各行が改めて検討する材料になる。投資商品の用途を外した判断は、ステーブルコインを証券の決済に使う際に、別の規制の承認が壁になりうることも示している。
注視点
実際の発行日と、発行量の上限や残高の開示方法が焦点である。PayMeとHSBCのアプリの外、つまり他社のウォレットや取引所に送れるかどうかは、流通の広がりを左右する。Anchorpointの発行時期と用途も比較の対象になる。HSBCは名称の先行公表とあわせて、偽のコインへの注意を呼びかけており、発行前の詐欺対策も銀行発行ステーブルコインの課題として見ておきたい。
進捗段階
実装トラック ⓪(発行ライセンスは取得済みだが未発行。名称と用途の公表段階)
用語解説
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ステーブルコイン発行ライセンス(香港):香港で法定通貨に連動するステーブルコインを発行するために、HKMAから受ける免許。2025年8月の条例施行で必要になり、2026年4月に最初の2社に付与された。裏付け資産の分別管理や償還義務が条件になる。
- 英:stablecoin issuer licence / 用例:The bank received one of the first two stablecoin issuer licences in Hong Kong. (同行は、香港で最初に付与された2件のステーブルコイン発行ライセンスの1つを得た)
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個人間送金(P2P)と加盟店決済(P2M):個人同士の送金と、個人から店舗への支払い。ステーブルコインの小売向け用途として最も基本的な2つである。既存のQR決済や即時送金と機能が重なるため、利用者に選ばれる理由をどう作るかが課題になる。
- 英:person-to-merchant payment / 用例:The coin will first support peer-to-peer transfers and person-to-merchant payments. (このコインはまず、個人間送金と加盟店決済に対応する)
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分別管理:顧客から預かった資産や裏付け資産を、発行体自身の資産と分けて管理すること。発行体が破綻しても、保有者が裏付け資産から弁済を受けられるようにするための仕組みである。銀行が発行する場合でも、預金とは別に扱われる点が重要になる。
- 英:segregated reserves / 用例:Each token is backed one to one by segregated reserves of high-quality liquid assets. (各トークンは、分別管理された高流動性資産により1対1で裏付けられている)
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配布経路(ディストリビューション):ステーブルコインを利用者の手元に届ける窓口。自社アプリ、他社ウォレット、取引所などがある。閉じた経路は管理しやすいが流通が広がりにくく、開いた経路はその逆になる。
- 英:distribution channel / 用例:At launch, the bank's own apps will be the only distribution channel. (発行時点では、同行の自社アプリが唯一の配布経路になる)
出典
- Ledger Insights「HSBC reveals Redcoin brand for upcoming Hong Kong stablecoin」(2026年9月30日): https://www.ledgerinsights.com/hsbc-reveals-redcoin-brand-for-upcoming-hong-kong-stablecoin/
- crypto.news「HSBC RedCoin stablecoin set for Hong Kong launch」(2026年9月30日): https://crypto.news/hsbc-redcoin-stablecoin-set-for-hong-kong-launch/
- FinanceFeeds「HSBC Names Its Hong Kong Stablecoin Ahead of Launch」(2026年9月30日): https://financefeeds.com/hsbc-names-its-hong-kong-stablecoin/
- 金融庁「資料2 金融庁説明資料」(AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム第1回、2026年9月30日): https://www.fsa.go.jp/singi/ai_onchain/shiryou/20260930/02.pdf
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。