香港政府は2026年9月28日、香港ドル、人民元、米ドル、ユーロの4通貨建てで、総額約200億香港ドル相当(約4,032億円、筆者換算)のデジタル・グリーンボンドの発行条件を決め、HKMAが29日に公表した。4回目の発行で、デジタル債券として世界最大とされる。香港ドル建てでは、トークン化預金による決済を初めて取り入れた。国債のトークン化を研究する財務省や証券決済の関係者にとって、資金の受け渡し方法を選べる設計は参考になる。トークン化預金で決済された金額や参加銀行の内訳は確認できていない。
何が起きたか
報道によれば、内訳は香港ドル建て55億香港ドル(2年、利率3.80%)、人民元建て75億元(5年、1.65%)、米ドル建て2億ドル(3年、5.023%)、ユーロ建て4.5億ユーロ(4年、3.734%)である。応募倍率は1.3〜11.3倍だった。債券はHSBCのデジタル資産基盤「Orion」で発行され、HKMAの証券決済機関CMUと連携する。Ledger Insightsによれば、今回から投資家は、従来の決済、トークン化された中銀マネー、トークン化預金の3つから決済の方法を選べるようになった。香港ドル建てでは、HKMAが進める「Project Ensemble」の試験基盤EnsembleTXを通じて、トークン化預金による決済を組み込んだ。同メディアは、香港のデジタル債券が2023年の初回の約1億ドル規模から拡大し、今回の約25.5億ドル(約4,033億円。1ドル=158.16円、1香港ドル=20.16円とし、三菱UFJ銀行の2026年10月2日の公示仲値で筆者が換算)は2025年の発行額の約2倍にあたると伝えている。
なぜ重要か
これまでのデジタル債券の多くは、債券をトークン化しても、資金は従来の決済網で動かしていた。それでは、証券と資金を同時に受け渡すDvPの利点を十分に引き出せない。香港は、トークン化預金とトークン化された中銀マネーを並べ、投資家が選べる形にした。参加者にとっては、一つの決済手段に賭けずに済む。日本では財務省が国債のトークン化を研究し、日銀は日銀当座預金のオンチェーン対応の論点を年内に整理する。銀行のトークン化預金と中銀マネーをどう並べるかという、日本がこれから決める設計を、香港は実際の政府債で先に試したことになる。
注視点
トークン化預金で実際にどれだけの金額が決済され、どの銀行が参加したかはまだ確認できていない。HKMAが発行後に示す振り返りの内容と、次回の発行で他の通貨建てにもトークン化預金での決済を広げるかが焦点である。
進捗段階
実装トラック:①(実際の政府債の発行・決済に使われた段階。ただし従来の決済と並行しており、既存の決済を置き換えてはいない) 規制トラック:対象外
用語解説
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デジタル債券:債券の発行、記録、決済をブロックチェーンなどの分散台帳の上で行う債券。権利の記録と決済を一つの基盤で扱えるため、受け渡しの日数や事務の手間を減らせる。日本では、デジタル社債やST社債として発行例がある。
- 英:digital bond / 用例:The government priced its fourth digital bond offering across four currencies. (政府は4回目のデジタル債券の発行条件を、4通貨建てで決めた)
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Project Ensemble:HKMAが進める、トークン化預金とトークン化資産の取引の実証プロジェクト。銀行が発行するトークン化預金どうしを、中銀マネーで決済できるようにする仕組みを試している。EnsembleTXは、その実取引を試す基盤である。
- 英:Project Ensemble / 用例:The HKD tranche used Project Ensemble infrastructure to settle with tokenized deposits. (香港ドル建ては、Project Ensembleの基盤を使ってトークン化預金で決済した)
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CMU(中央マネーマーケット・ユニット):HKMAが運営する債券の決済・保管の機関。香港の政府債や社債の受け渡しを担う。日本でいえば、日銀ネットの国債系や証券保管振替機構に近い役割である。
- 英:Central Moneymarkets Unit (CMU) / 用例:The digital platform was linked to the Central Moneymarkets Unit for settlement. (デジタル基盤は、決済のためにCMUと接続された)
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DvP(証券資金同時受渡し):証券の引き渡しと代金の支払いを同時に行い、どちらか一方だけが実行される状態を防ぐ仕組み。相手が破綻したときに証券だけを渡してしまう損失を避ける。資金の側もトークン化されると、同じ基盤の上でこれを自動で行える。
- 英:delivery versus payment (DvP) / 用例:Tokenized cash lets the bond settle on a delivery versus payment basis on one platform. (資金がトークン化されれば、債券を一つの基盤上でDvPにより決済できる)
出典
- 香港金融管理局(HKMA)「HKSAR Government's Fourth Digital Green Bonds Offering」(2026年9月29日、本文は転載で確認): https://www.hkma.gov.hk/eng/news-and-media/press-releases/2026/09/20260929-6/
- Dimsum Daily「HKSAR government prices HK$20 billion digital green bonds across four currencies with record demand」(2026年9月): https://www.dimsumdaily.hk/hksar-government-prices-hk20-billion-digital-green-bonds-across-four-currencies-with-record-demand/
- Ledger Insights「Hong Kong government issues record $2.55bn digital green bond」(2026年10月2日): https://www.ledgerinsights.com/hong-kong-government-issues-record-2-55bn-digital-green-bond/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。