ECBのイザベル・シュナーベル理事は2026年10月1日、イングランド銀行が開いた会議で講演し、中銀マネーをブロックチェーン上の取引の決済に使う方法として3つのモデルを示した。準備預金を直接トークン化する方式、既存の決済システムとブロックチェーンを連携させる方式、準備預金を裏付けに民間が決済用のトークンを発行する方式である。年内に日銀当座預金のオンチェーン対応の論点を整理する日銀と、それを待つ日本の銀行にとって、選択肢の地図になる。ECBがどの方式を採るかは示されていない。
何が起きたか
講演資料によれば、1つ目のモデルでは、準備預金そのものをプログラム可能な基盤の上でトークンとして発行する。2つ目のモデルでは、準備預金はトークン化せずに既存の決済システムに置いたまま、ハッシュで結び付けた仕組みでブロックチェーン上の決済を起動する。3つ目のモデルでは、中央銀行に置かれた準備預金を裏付けに、民間の主体が決済用のトークンを発行する。資料は、トークン化によって決済をより速く、安全に、高度にできるとし、その理由としてプログラム可能性と、証券と資金を同時に受け渡す原子性を挙げた。ECBが9月21日に稼働させた「Pontes」は、連携の仕組みとユーロシステムの分散台帳を組み合わせ、既存のTARGETと分散台帳のどちらでも決済できる。今後は24時間の稼働などの拡張を予定する。長期の構想「Appia」では、単一の台帳、相互に接続された複数の網、複数の共有台帳といった構成を検討している。
なぜ重要か
トークン化した証券をブロックチェーン上で決済するには、資金の側もブロックチェーン上で動かす必要がある。民間のトークン化預金やステーブルコインだけでは、銀行間の最終的な決済を中銀マネーで行うという原則を守れない。3つのモデルは、中央銀行がどこまで自らブロックチェーンに関わるかの違いでもある。直接発行なら中央銀行が台帳の運営に責任を持ち、連携型なら既存のシステムを生かせ、民間トークン型なら民間の工夫を取り込める。日本でも日銀が年内に論点を整理する予定で、銀行のシステム投資の方向はその選択で分かれる。ECBが二層構造を保てるとした点は、日銀の整理でも前提になるとみられる。
注視点
ECBが3つのモデルのどれを、どの順序で採るのかが最大の焦点である。Pontesの24時間化の時期と、Appiaの構成の絞り込みも見ておきたい。日銀の年内の論点整理が、どのモデルに近い内容になるかもあわせて確認したい。
進捗段階
制度トラック:①(中央銀行が選択肢を示した段階。方式の決定はない) 実装トラック:Pontesは②相当(9月に稼働済み。講演はその先の構想を示したもの)
用語解説
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準備預金:民間の銀行が中央銀行に預けている当座預金。銀行どうしの最終的な決済に使われる中銀マネーで、日本では日銀当座預金にあたる。これをブロックチェーン上で使えるかどうかが、トークン化した取引の安全性を左右する。
- 英:central bank reserves / 用例:The first model issues central bank reserves directly as tokens on a programmable platform. (1つ目のモデルは、準備預金をプログラム可能な基盤の上で直接トークンとして発行する)
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決済トークン:中央銀行に置かれた準備預金を全額の裏付けとして、民間の主体が発行する決済用のトークン。中央銀行が台帳を運営せずに、中銀マネーに近い安全性を持つ資金をブロックチェーン上で使えるようにする。ただし法的には民間の債務である。
- 英:settlement token / 用例:A settlement token is fully backed by reserves but remains a private claim. (決済トークンは準備預金で全額裏付けられるが、民間の債務であることに変わりはない)
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原子性(アトミック決済):複数の受け渡しを一体の処理として扱い、すべてが成立するか、すべてが成立しないかのどちらかにする性質。証券だけ、資金だけが動く状態を防ぐ。従来は決済機関が時間差をつけて管理してきたリスクを、仕組みで取り除く。
- 英:atomic settlement / 用例:Atomic settlement ensures the bond and the cash move together or not at all. (アトミック決済では、債券と資金が一緒に動くか、どちらも動かないかのいずれかになる)
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二層構造:中央銀行が銀行に中銀マネーを供給し、銀行が企業や個人に預金を提供するという、通貨制度の基本的な形。民間のお金と中銀マネーが1対1で交換できることが、通貨への信頼を支える。トークン化が進んでもこの形を保てるかが、各国の中央銀行の共通の関心事である。
- 英:two-tier monetary system / 用例:The ECB argues tokenization can preserve the two-tier monetary system. (ECBは、トークン化が進んでも二層構造は保てると主張している)
出典
- 欧州中央銀行(ECB)イザベル・シュナーベル理事 講演資料「Central banks on-chain」(2026年10月1日): https://ecb.europa.eu/press/key/date/2026/html/ecb.sp261001_1~a0be67193b.pt.pdf
- The Block「ECB outlines three models for putting central bank money onchain」(2026年10月2日): https://www.theblock.co/news/regulation/2026-10-02-ecb-outlines-three-models-for-putting-central-bank-money-onchain-417552
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