金融庁は2026年8月31日、令和9年度(2027年度)の予算および機構・定員要求の概要を公表した。予算要求の総額は403億円で前年度予算比134億円増、内訳は人件費200億円、物件費155億円、デジタル庁一括計上48億円である。定員は32人の増員要求から定員合理化等18人減を差し引き14人の純増を求め、うち13人を新たな金融サービスへの対応に充てる。暗号資産取引業者のモニタリングとデジタル決済の高度化推進にそれぞれ室長の設置を求めた。要求段階であり、年末の政府予算案で確定する。
何が起きたか
令和9年度の予算要求は総額403億円(対前年度予算プラス134億円)である。政策的経費では「強い経済を実現する成長投資の促進」に48億円を計上し、その内訳に「デジタル技術を用いた金融サービスの変革」として、オンチェーンの金融手法の利活用と、デジタル決済と連携した決済システムの構築促進を明記した。ほかに地域金融力の強化28億円、金融システムの信頼確保と利用者保護64億円を置く。定員面では、13人を配分する「新たな金融サービスに対応するための体制強化」の内訳として、暗号資産取引業者に対するモニタリング体制の強化(室長の設置等)、フロンティアAI等の技術進展に伴うリスクへの対応(企画官の設置等)、デジタル技術を活用した決済の高度化推進(室長の設置等)、電子決済手段等取引業者の監督体制の強化の四つを挙げている。
なぜ重要か
金融庁は2026年8月7日付の組織再編で「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設しており、今回の要求はその課に実働の人員と室長級ポストを充てる段階に当たる。実務者にとって重要なのは、電子決済手段等取引業者の監督体制強化が独立した項目として立っている点である。ステーブルコインの発行・取扱いに参入する銀行・信託銀行・証券会社は、これまで前例の乏しかった領域で、恒常的な監督とモニタリングの対象になることを前提に態勢を組む必要が出てくる。また政策的経費に「オンチェーンの金融手法の利活用」が明記されたことは、当局が抑制側だけでなく促進側の予算も持つことを意味する。
注視点
これは要求であって決定ではない。財務省の査定を経て、年末に閣議決定される政府予算案で人員数もポストも変わりうる。実際の体制がどうなるかは、令和9年度の機構・定員査定の結果と、その後の組織規則の改正で確認する必要がある。あわせて、同じ8月31日に公表された令和9年度税制改正要望(信託型ステーブルコインの法定調書提出を不要とする要望を含む)と、いまだ未公表の2026事務年度金融行政方針の記述が、この体制強化とどう整合するかが次の焦点になる。
進捗段階
規制トラック⓪〜①(政策形成・予算要求段階)。法令改正でも監督指針の改正でもなく、行政組織の資源配分の要求にとどまる。ただし2026年8月7日の課新設という組織変更が先行して実行済みである点で、単なる構想ではなく実装の裏付けを伴う。年末の政府予算案での確定をもって①相当と判定できる。
用語解説
- 機構・定員要求:各府省が翌年度に必要な組織(課室・ポスト)と人員を要求する予算プロセスの一部。国家公務員の総定員は法律で上限が定められており、新規増員は既存部門の合理化による減員と相殺される。したがって「純増14人」という数字は、庁全体の資源配分の優先順位をそのまま表している。
- 電子決済手段等取引業:資金決済法上、ステーブルコイン(電子決済手段)の売買・交換や管理などを業として行う者に求められる登録業種。発行体そのものではなく、流通を担う仲介者を捕捉する枠組みで、伝統的金融でいえば証券の販売会社や資金移動業者に対応する位置づけにある。
- 室長の設置等:省庁の組織上、課の下に置かれる室の長を新設することを指す。担当者を増やすのではなく指揮系統を一つ立てる要求であり、当該分野を恒常的な監督ラインとして扱う意思表示として読める。
- オンチェーンの金融手法:ブロックチェーン上で証券や資金の記録・移転・決済を行う手法の総称。今回の予算要求では、抑止の対象ではなく利活用を促進する対象として計上されている点が、従来の暗号資産関連の予算項目と性格を異にする。
出典
- 金融庁「令和9年度予算、機構・定員要求について」(2026年8月31日): https://www.fsa.go.jp/common/budget/yosan/9youkyuu.html
- 金融庁「令和9年度 予算、機構・定員について」(要求資料PDF): https://www.fsa.go.jp/common/budget/yosan/9youkyuu/01.pdf
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。