英フナリティは2026年9月10日、元イングランド銀行副総裁のジョン・カンリフ氏を英国法人会長に、元ドイツ連邦銀行のヨッヘン・メッツガー氏と元オランダ中央銀行のロン・ベルンドセン氏を新設の欧州法人監督委員会の委員に任命したと発表した。メッツガー氏は同委員会の議長に就く見込みで、同社はポンドに続くユーロ・ドル版の認可を目指す。日本の金融機関には、中銀マネーで資金決済を担う民間基盤が主要通貨で並び立つかを測る材料となる。
何が起きたか
フナリティは、参加金融機関が中央銀行に置いた資金を裏付けに、分散型台帳上でホールセールの資金決済を行うシステムを運営する。英ポンド版は2023年に稼働し、イングランド銀行の規制下にある。Ledger Insightsによれば、公表されている参加行はロイズ、サンタンデール、UBS、BNPパリバの4行で、24の出資金融機関の一部にとどまる。今回の人事では、カンリフ氏が英国法人の取締役会を率い、ユーロ版を準備する欧州法人には監督委員会を新設した。メッツガー氏はユーロ圏の大口即時決済基盤TARGET2、証券決済基盤T2S、即時小口決済TIPSの構築を主導した経歴を持つ。ベルンドセン氏は現在、清算機関LCHの英仏両法人で独立非業務執行取締役を務め、両社のリスク委員会の議長でもある。同社のニール最高経営責任者は、中銀マネー残高による規制下のオンチェーン決済は、トークン化資産市場がホールセールで拡大するための前提条件だと述べた。
なぜ重要か
トークン化証券の同時決済には、資金側の決済資産が欠かせない。候補はステーブルコイン、トークン化預金、中銀マネーの三つだが、最も安全な中銀マネーは、中央銀行自身の基盤か、フナリティのように中銀口座を裏付けとする民間基盤を通じてしか使えない。ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が、DLT上の取引を中銀マネーで決済する「ポンテス」を9月21日に稼働させる予定で、民間と公的基盤の役割分担が現実の問題になる。日本では日銀当座預金のトークン化の検討が報じられており、中銀マネーを誰がどの台帳で提供するかという同じ選択を迫られると考えられる。
注視点
Ledger Insightsによれば、2025年4月に州法上の銀行として18か月の暫定認可を受けた米国子会社について、延長を審議する審問が来週予定されている。米国での認可の行方が、英国で4行にとどまる参加の広がりを左右するとみられる。ユーロ版にはECBと各国当局の承認が必要で、ポンテスとの関係をどう整理するかが焦点となる。
用語解説
- 中銀マネー:中央銀行が発行する通貨で、金融機関が中央銀行に保有する当座預金を含む。発行体の信用リスクがなく、最終的な決済手段として最も安全とされる。トークン化市場でもこれを決済資産に使えるかが制度設計の中心的な論点となっている。
- ホールセール決済:金融機関や機関投資家の間で行われる大口の資金決済。証券取引の代金、担保の受け渡し、銀行間の資金繰りなどが含まれ、失敗が連鎖すると金融システム全体に影響する。
- DLT(分散型台帳技術):複数の参加者が同じ取引記録を共有・更新する技術の総称で、ブロックチェーンはその代表例。資産と資金を同じ台帳上で扱えば、照合作業を減らし同時決済を実現しやすくなる。
- ポンテス:ECBが整備する、外部のDLT基盤と既存の中銀決済システムを接続する仕組み。トークン化資産の取引代金を、ユーロの中銀マネーで決済できるようにする短期的な解決策と位置づけられる。
- DVP(証券資金同時決済):証券の引き渡しと代金の支払いを同時に行い、一方だけが履行される危険をなくす決済方式。トークン化の効果を最大化するには、資金側も同じ速度で動く必要がある。
出典
- Asset Servicing Times「Fnality appoints Cunliffe, Metzger, and Berndsen」(2026年9月10日): https://www.assetservicingtimes.com/assetservicesnews/peoplemovesarticle.php?article_id=18314
- Ledger Insights「Cunliffe becomes Fnality UK Chair. DLT payment group has ex central bankers from UK, US, EU」(2026年9月10日): https://www.ledgerinsights.com/cunliffe-becomes-fnality-uk-chair-dlt-payment-group-has-ex-central-bankers-from-uk-us-eu/
- Cointelegraph「Ex-BoE Cunliffe Joins Fnality With Former Central Bankers」(2026年9月10日): https://cointelegraph.com/news/ex-boe-cunliffe-central-bankers-fnality
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。