DBSとシティは2026年9月7日、シンガポールと米国の間の米ドル建てクロスボーダー決済を、9月5日の土曜日にトークン化預金で完了したと発表した。決済はSwift Digital Ledgerを介して行われ、数分で完了したという。両行は、時差と週末の空白が重なる場合に業界標準では最大2営業日を要すると説明している。DBSはSwift共有台帳の設計を担う中核グループ12行のうち唯一のアジア拠点銀行で、2024年から自行のトークン化預金サービスを提供してきた。取扱金額や対象顧客は公表されていない。
何が起きたか
取引はシンガポールのDBSとシティのニューヨーク拠点の間で行われた。Swift Digital Ledgerは、各行が自行の台帳上で発行するトークン化預金の移転を調整する層である。台帳自体が決済を処理するのではなく、銀行間の指図とコミットメントを伝え、債務をネッティングしたうえで、最終的な決済は従来の方法で行われると専門メディアは説明している。
DBSは2024年に24時間365日の価値移転サービス「DBS Token Services」を立ち上げている。今回の発表では、自社調査で財務責任者の50%が流動性・為替管理の手段としてブロックチェーンを検討していると述べ、アジアの対外クロスボーダー決済額が2025年の13兆5000億ドル(約2160兆円、1ドル=160円で筆者換算)から2033年に24兆ドル(約3840兆円、同)へ拡大するとの第三者予測を引用した。Swift共有台帳は2026年7月に6大陸17行で稼働し、8月のHSBC・スタンダードチャータード、9月2日のシティとファースト・アブダビ銀行・OCBCの取引に続く事例だと報じられている。
なぜ重要か
24時間365日動くことは、これまでステーブルコインが銀行送金に対して主張してきた最大の優位点だった。今回の取引は、その領域に銀行が預金負債の側から応じた形になる。日本の銀行にとっての含意は二つある。第一に、トークン化預金は法的に預金のままバランスシートに残るため、ステーブルコインへ資金が移る場合と異なり預金流出を伴わない。第二に、既存の送金網を置き換えるのではなくその上に調整層を重ねる設計であるため、現行のコンプライアンスや与信の枠組みを保ったまま導入できる。海外送金の営業日制約を解けるかは、企業財務部門への提案内容を左右する。
注視点
現在は年末まで続くパイロット期間で、17行の参加が予定されている。設計グループの銀行同士による実取引と、多数の企業が日常的に週末の資金を流すこととの間には距離がある。日本の大手行の参加状況や円建て取引への対応は、今回の発表では示されていない。ネッティング後の最終決済が従来手段に依存する構造も論点として残る。
進捗段階
実装トラック②(限定パイロット下の実取引)。実際の資金が動き法的な移転も生じているが、年末までの試行期間中であり、反復的な業務フローに組み込まれたことは確認できていない。
用語解説
- トークン化預金:銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして表現したもの。法的には預金のままで銀行のバランスシートに残り、預金保険や既存の銀行規制が引き続き適用される。ステーブルコインが銀行の外に資金を移すのに対し、こちらは銀行の中に留めたまま24時間の移転を可能にする設計である。
- Swift Digital Ledger:Swiftが構築した許可型の共有台帳で、参加行それぞれが持つ台帳の間で指図と債務を調整する。各行のトークンを一つの台帳に集約するのではなく、相互運用のための調整層として働く点が特徴である。2026年7月に17行で稼働した。
- コルレス銀行:自国に拠点を持たない通貨での決済を代行してもらうために、海外の銀行と結ぶ取引関係。多くの越境送金はこの関係を数珠つなぎにして処理されるため、各国の営業日と時差の分だけ着金が遅れる。
- ネッティング:複数の債権債務を相殺し、差額だけを決済する方法。決済に必要な資金量を圧縮できる一方、相殺後の最終決済が完了するまでは相手方の信用リスクが残る。
- 中核設計グループ:Swift共有台帳の仕様策定に関与する12行の枠組み。参加行は稼働前の設計段階から要件に関与するため、自行の既存システムとの接続を前提にした仕様になりやすい。
出典
- DBS「DBS and Citi partner to enable instant 24/7 cross-border USD payments with tokenised deposits」(2026年9月7日): https://www.dbs.com/newsroom/DBS_and_Citi_partner_to_enable_instant_247_cross_border_USD_payments_with_tokenised_deposits
- Ledger Insights「DBS, Citi conduct weekend tokenized deposit payments using Swift Ledger」(2026年9月7日): https://www.ledgerinsights.com/dbs-citi-conduct-weekend-tokenized-deposit-payments-using-swift-ledger/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。