NEWS米国実装②限定実装(パイロット)2026-09-04

米トークン化預金基盤Cari、3,250万ドルを銀行のみから調達──G-SIB連合とは別に、中堅・地域銀行の共同インフラが立ち上がる

出資者が全て銀行という点に、この調達の性格が出ている。決済インフラを自前で作れない規模の銀行が、共同で持つ側に回るための資金である。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

米国のトークン化預金ネットワークCariは2026年9月2日、初回外部調達の第1トランシェとして3,250万ドル(約52億円、1ドル=160円換算・筆者算出)を調達したと発表した。出資者は全て銀行で、設計パートナー6行にグレイシャー銀行などが加わった。参加行は30超、協議中が40行超で、合計資産は10兆ドル超という。9月1日公表のG-SIB中心のドル建てステーブルコイン新会社とは対照的に、中堅・地域銀行が共同でインフラを持つ構図である。ただし基盤は本番稼働前で、実取引の実績は公表されていない。

何が起きたか

Cariは2026年9月2日、ワシントン発の発表で初回外部調達の第1トランシェ3,250万ドルの完了を明らかにした。出資したのはファーストホライズン、ハンティントン、キーバンク、M&Tバンク、オールド・ナショナル、サウスステートの設計パートナー6行と、グレイシャー銀行を含む新規参加行である。同社は2026年3月31日に最小限の製品を立ち上げ、7月31日に機能一式を提供した。現在はプログラム実行機能、ウォレット、運用ポータルを備え、参加行がパイロットで発行・移転・消却の一巡を実行できるが、本番稼働には至っていない。参加行は30行超、協議中が40行超で、合計資産は10兆ドル(約1,600兆円、同レート・筆者算出)を超えるとしている。基盤にはZKsyncが用いられ、経営は元通貨監督庁長官のユージン・ラドウィグ氏が率いる。

なぜ重要か

日本の地域金融機関にとって、この事例は「決済インフラを自前で持てない規模の銀行が、どう共同化するか」の先行例になる。ファーストホライズンの経営陣は、共有インフラで単独では負担しきれない機能を得つつ、競争は取引関係とサービスで続けると説明する。差別化しない領域を共同で持つという整理は、日本の共同センターや地銀共同システムの発想と重なる。また調達の全額が銀行からという構造は、ベンダーが銀行に売る形ではなく、銀行が保有し統治する形を選んだことを意味する。ステーブルコインは規制上、保有者への利息付与に制約があるのに対し、トークン化預金は預金である以上その制約を受けない。日本でも預金のトークン化は銀行法の枠組みに乗るため、電子決済手段とは別の設計論として比較する価値がある。

注視点

第一に、本番移行の時期と、パイロットで実際に動いた取引額の開示である。参加行数と合計資産は規模の指標だが、稼働実績とは別物である。第二に、参加行の預金がどの法的位置づけでトークン化されるか。預金保険の扱い、破綻時の処理、行間移転の決済ファイナリティがどこで確定するかは未公表である。第三に、G-SIB主導のステーブルコイン連合との棲み分けが、顧客層の違いにとどまるのか、相互接続に向かうのかである。

進捗段階

実装トラック①相当。製品一式は完成しパイロットで発行・移転・消却の一巡は動くが、同社自身が本番稼働前と明言しており、既存の決済プロセスを置き換えた段階ではない。

用語解説

  • トークン化預金:銀行が受け入れた預金を、共有台帳の上で移転可能な形で記録したもの。預金である点は変わらないため、預金保険や利息の扱いは従来どおりで、発行体の信用リスクも従来の銀行預金と同じ位置づけになる。ステーブルコインと異なり、規制の枠組みは銀行法の側に置かれる。
  • 設計パートナー銀行:システムの仕様策定段階から参加し、要件定義や検証を担う銀行のこと。ベンダー主導で作った基盤を後から売り込む形と比べ、実務要件が初期から反映されやすい一方、参加行の業務慣行に寄った設計になりやすい。
  • 本番稼働前(pre-production):機能開発とテストは完了しているが、実際の顧客資金を伴う商用運用には移行していない状態。パイロットで「動いた」ことと、既存業務を置き換えたことは別であり、この区別が実装段階の評価を左右する。
  • ZKsync:ゼロ知識証明を用いてイーサリアム上の処理をまとめて検証する仕組みを提供する基盤。取引内容を伏せたまま正当性を証明できるため、取引先や金額を他行に見せたくない銀行間の用途で採用例が出ている。
  • 通貨監督庁(OCC):米国の国法銀行を監督する財務省の外局。ステーブルコイン発行者の連邦規制の担い手でもあり、その元長官が銀行主導のトークン化預金網を率いていることは、規制対応を前提とした設計思想を示唆する。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-04

この記事をシェアする

X・Facebook・LinkedInで、今すぐ友達に届ける。

SHARELB!

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週お届け

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。