NEWSグローバル制度⓪検討・研究2026-09-01

BIS金融安定研究所、ステーブルコイン規制の業務制限は「発行体単体」にとどまると指摘

発行体に禁じた業務を、同じグループの別会社が担うことができる。規制の穴は条文の中ではなく、法人の境界線の外側にあるという指摘である。

BY OFM Research · 5 MIN READ

SHARELB!

BISの金融安定研究所(FSI)は2026年8月27日、FSI Briefs第33号「Regulating stablecoin issuance: permissible entities and activities」を公表した。発行主体の範囲と、発行以外に認められる業務の範囲が法域間で大きく異なると整理し、業務制限が発行体という法人にのみ適用され、グループ全体には及ばない点を問題として挙げた。銀行は連結監督で抑制されるが、非銀行にはそれに相当する枠組みがなく、組織構造の工夫で制限を回避しうると指摘した。

何が起きたか

FSIは、ステーブルコインの規制枠組みが一般に発行・償還・準備資産管理という中核業務に発行体を限定しつつ、そこからどこまでの逸脱を認めるかで差が出ると整理した。既存の健全性規制の下で銀行に発行を認める枠組みは、規制が既にリスクを抑えているため広い業務を認める傾向がある。逆に、ステーブルコイン発行体向けに新設された専用の枠組みは、より厳しい制限を課すという。

中心的な指摘は適用範囲にある。業務制限は発行体という法人に適用され、グループには及ばない。銀行であれば連結監督が業務の関連会社への移転を制約するが、非銀行にはこれに相当する枠組みがない。FSIは、ステーブルコインの枠組みまたは関連する規制において、非銀行の発行体、とくに規模の大きいグループにグループ単位の監督を及ぼす必要がありうると述べている。報道によれば、比較対象は米国・EU・英国・香港・シンガポールの5法域である。

なぜ重要か

日本の銀行と信託銀行にとっては、自らの構造がこの論点の外側にあることを確認する材料になる。国内の電子決済手段は資金移動業型と信託型が中心で、いずれも既存業法の下に置かれ、銀行グループであれば連結の監督対象になる。FSIが懸念する非銀行グループの構造は、国内では現時点で主要な形態ではない。

一方、外国発行のステーブルコインを国内で取り扱う場合には、この論点が直接効いてくる。取扱いの可否を発行体単体の規制適合で判断すると、関連会社が担う貸付やカストディのリスクを見落とす。発行体の財務諸表ではなくグループの業務範囲を見る、という審査の視点が要る。

注視点

第一に、この指摘がFSBやバーゼル銀行監督委員会の基準改定に反映されるかである。FSI Briefsは基準ではなく分析である。第二に、比較対象に日本が含まれていない点をどう扱うか。第三に、非銀行発行体へのグループ監督が具体化する場合、どの法域が先に動くかである。

進捗段階

⓪ 分析の公表(規制トラック)。FSI Briefsは著者の見解として公表される分析文書であり、基準でも規則案でもない。これを受けた国際基準の改定手続が始まった事実は確認できないため、①とは判定しない。

用語解説

  • BIS金融安定研究所(FSI):1998年に国際決済銀行内に設置された組織で、各国の金融監督当局が国際基準を実装するのを支援する。公表物は基準そのものではなく分析だが、後の基準改定の論点整理として参照されることが多い。
  • 連結監督:親会社・子会社を一体として資本や業務範囲を規制する監督手法。銀行グループでは、規制対象業務を子会社に付け替えても監督を逃れられない。非銀行の発行体グループには、これに相当する仕組みが多くの法域で存在しない。
  • 業務制限(permissible activities):発行体が発行・償還・準備資産管理以外にどこまでの業務を行えるかを定める規制。貸付、ステーキング、第三者の暗号資産のカストディなどは、発行体のリスク特性を変えるため制限の対象になりやすい。
  • 規制裁定:規制の適用範囲の境目を利用して、実質的に同じ活動をより緩い規制の下で行うこと。今回の指摘は、法域間ではなくグループ内の法人間で生じる裁定を問題にしている点が特徴である。
  • 電子決済手段:日本の資金決済法上、法定通貨と価値が連動し支払に使える一定のトークンを指す区分。発行できる主体が資金移動業者、信託銀行等に限定されており、発行体が既存業法の監督下に置かれる点が制度設計の前提になっている。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-09-01

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