国際決済銀行(BIS)と国際金融協会(IIF)が主導する国際送金の実験「プロジェクト・アゴラ」に、9月29日、バークレイズ、BMO、CIBC、ラボバンク、RBC、スコシアバンク、ウェルズ・ファーゴの7行が加わった。BMOによれば、参加中銀は8行、民間は40社を超える。日本銀行は当初からの参加中銀であり、邦銀にとっては、国内のトークン化預金と国際決済をどう接続するかという論点に直結する。ただし実験の段階であり、実用化の日程は示されていない。
何が起きたか
BMO、CIBC、スコシアバンクはそれぞれ9月29日に参加を発表した。専門メディアLedger Insightsによると、カナダの大手6行のうち5行がアゴラに参加したことになる。うちTDは米国子会社を通じてすでに参加していた。カナダの6行は前の週、国内の銀行間決済にカナダドル建てのトークン化預金を使う共同の取り組みを発表しており、アゴラはこれに国際決済の出口を与える形になる。アゴラは、各国の商業銀行が発行するトークン化預金と、中央銀行が発行するトークン化された準備預金を同じ基盤に載せ、複数通貨の国際送金を同時に完結させる仕組みを検証している。スコシアバンクによれば、2026年7月に実際の資金を使った複数法域での試験を終えている。日本の金融庁の資料では、同年5月にプロトタイプでの実証が始まったとされる。マネロン対策やデータ保護、決済の最終性(取り消されない決済の確定)といった法規制上の論点も検討対象である。
なぜ重要か
国内の取り組みと国際決済のつなぎ方が具体的に見え始めた点が大きい。カナダの例では、国内でトークン化預金の共同基盤を作り、その出口をアゴラで国際決済に接続する二段構えになっている。日本でも、DCPのトークン化預金を複数の銀行間で移す実証が金融庁の支援案件として進み、日銀は日銀当座預金のオンチェーン対応を検討している。アゴラと仕様をそろえておけば、国内の基盤を国際送金に接続するときの作り直しを避けられる。逆に、国内の設計がアゴラと食い違えば、後から二重に投資することになりかねない。コルレス銀行を経由する現在の国際送金は、時間とコストの両面で改善の余地が大きい。基盤が実用化すれば、外為・送金業務の収益構造にも影響が及ぶとみられる。
注視点
アゴラの最終報告の時期と、その後に本番運用へ移る枠組みがあるかどうかが焦点である。現時点では実験の段階で、商用化の主体や費用負担は決まっていない。日本からの民間参加行の顔ぶれと、今回の追加募集に邦銀が応じたかどうかは、今回の発表では確認できない。国内の実証(PIP第3号や日銀の検討)がアゴラの仕様をどこまで参照するかも見ておく必要がある。
進捗段階
実装トラック ①(実資金での試験は完了したが、実験プロジェクトであり本番運用は未定)
用語解説
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プロジェクト・アゴラ:BISが複数の中央銀行と民間金融機関を集めて進める、国際送金の共通基盤の実験。トークン化預金と中銀の準備預金を同じ台帳に載せ、送金と決済を一度に完結させることを目指す。日本銀行、イングランド銀行、ニューヨーク連銀などが発足当初から参加している。
- 英:Project Agorá / 用例:Project Agorá tests whether tokenized deposits and central bank reserves can settle on one platform. (プロジェクト・アゴラは、トークン化預金と中銀準備を1つの基盤で決済できるかを検証している)
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中銀準備預金(トークン化):銀行が中央銀行に置く当座預金を、ブロックチェーン上で扱えるようにしたもの。銀行間の最終的な決済に使われる、最も安全な決済手段である。商業銀行のトークン化預金と同じ台帳で動かすことで、顧客間の送金と銀行間の決済を同時に確定できる。
- 英:tokenized central bank reserves / 用例:Final settlement between banks would occur in tokenized central bank reserves on the shared ledger. (銀行間の最終決済は、共有台帳上のトークン化された中銀準備で行われる)
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アトミック決済:複数の受け渡しを「全部成立するか、全部成立しないか」の一体の処理として行う決済。片方だけが実行されて相手方の不履行が起きるリスクをなくせる。国際送金では、通貨の交換と資金の移転を同時に確定させる用途が想定されている。
- 英:atomic settlement / 用例:Atomic settlement removes the risk that one leg of a cross-border payment fails. (アトミック決済は、国際送金の片方の取引だけが失敗するリスクを取り除く)
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コルレス銀行:海外送金のために互いに口座を開き合う銀行の関係、またはその相手銀行。送金は複数の銀行を順に経由するため、時間と手数料が経路や時差に左右される。アゴラは、この多段階の中継を共通台帳上の更新に置き換えることを狙う。
- 英:correspondent bank / 用例:Cross-border payments today often pass through several correspondent banks before arriving. (現在の国際送金は、着金までに複数のコルレス銀行を経由することが多い)
出典
- BMO「BMO Joins Project Agorá to Advance Cross-Border Payments Through Tokenization」(2026年9月29日): https://newsroom.bmo.com/2026-09-29-BMO-Joins-Project-Agora-to-Advance-Cross-Border-Payments-Through-Tokenization
- CIBC「CIBC joins global initiative to advance cross-border payments」(2026年9月29日): https://cibc.mediaroom.com/2026-09-29-CIBC-joins-global-initiative-to-advance-cross-border-payments
- Scotiabank「Scotiabank Joins Project Agorá to Help Explore the Future of Wholesale Cross-Border Payments」(2026年9月29日): https://www.newswire.ca/news-releases/scotiabank-joins-project-agora-to-help-explore-the-future-of-wholesale-cross-border-payments-845735531.html
- Ledger Insights「Barclays, Wells Fargo among 7 banks joining BIS Project Agorá as Canadian presence surges」(2026年9月29日): https://www.ledgerinsights.com/barclays-wells-fargo-among-7-banks-joining-bis-project-agora-as-canadian-presence-surges/
- BIS「BIS, central banks and the IIF invite private financial institutions to join Project Agorá」(2024年5月14日): https://www.bis.org/press/p240514.htm
- 金融庁「資料2 金融庁説明資料」(AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム第1回、2026年9月30日): https://www.fsa.go.jp/singi/ai_onchain/shiryou/20260930/02.pdf
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。