企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年8月17日、実務対応報告公開草案第74号など3件の公開草案を公表した。2026年6月施行の改正内閣府令で新設された「外国信託型第4号電子決済手段」について、第1号から第3号と会計上の性格に相違はないとして同様の会計処理・開示を行い、連結キャッシュ・フロー計算書上も現金に含めることを提案する。裏付け資産の運用要件が緩和された第3号電子決済手段は、取扱いを変更しない。意見募集は10月19日まで、適用は公表日以後で経過措置は置かない案である。
何が起きたか
公表されたのは、実務対応報告第45号の改正案である公開草案第74号、連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の一部改正案、および移管指針の改正案の3件だ。
背景には2つの法令改正がある。ひとつは資金決済法の改正(令和7年法律第66号)で、信託型ステーブルコインである第3号電子決済手段の裏付け資産について、全額を要求払預貯金で管理する要件を改め、信託財産総額の50%を上限に、元本を毀損しない形で一定の国債等・定期預貯金による運用を認めた。改正後も50%以上は要求払預貯金で管理され、倒産隔離は維持される。ASBJはこれを踏まえ、第3号の会計上の取扱いを変更しないことを提案した。
もうひとつは2026年6月施行の内閣府令改正で、日本の制度と同等性が認められた外国法令に基づく信託受益権を第4号電子決済手段と規定し、金融商品取引法上の有価証券とみなさないこととした。ASBJは、券面額と同額の払戻しを速やかに受けられる可能性が第1号から第3号と同水準にあり、換金リスクは要求払預金の信用リスクと同程度に低いとみている。
なぜ重要か
海外の信託型ステーブルコインを保有した場合の計上区分が、この草案で決まる。現金に含まれるのであれば、流動性指標や資金繰り管理における見え方が変わる。決済手段としての利用を検討する事業法人にとって、保有残高が現預金として扱われるかは導入判断そのものに影響する。
制度面では、同等性が認められた外国の信託型ステーブルコインという入口ができ、国内発行体の競合の構図が変わる。信託型ではProgmat Coin基盤やSBI新生信託銀行のJPYSCが立ち上がりつつあり、3メガバンクも共同発行を検討している。適用時期にも注意がいる。公表日以後の適用とし経過措置を置かない方針で、最終化されれば準備期間はほとんどない。
注視点
同等性が認められる外国法域と発行体がどこまで現れるかが最初の焦点になる。要件のうち、外国当局が金融庁長官の要請に応じて監督情報を提供できることという条件は、対象法域を相当程度絞る。次に、第4号のうち外国信託型以外の会計上の取扱いは依然未定である。最終化の時期も決算実務に直結する。
進捗段階
規制トラック②(公開草案・意見募集中)。 根拠となる法令改正はすでに施行済みで、会計基準側が追いついていない状態を埋める段階にある。最終化されれば③となるが、本稿執筆時点では確定していない。実際に外国信託型第4号として指定される商品はまだ確認されていない。
用語解説
- 電子決済手段(第1号〜第4号):資金決済法第2条第5項が定める分類。第1号・第2号は発行者が法定通貨建てで発行し券面額での払戻しを約するもの、第3号は特定信託受益権すなわち信託型ステーブルコイン、第4号はこれらに準ずるものとして内閣府令で定めるものを指す。分類が違えば適用される規制も会計上の扱いも変わる。
- 特定信託受益権:利用者が信託した金銭と同額の金銭信託の受益権として交付されるもの。信託財産が受託者の固有財産から分別管理されるため、発行体が破綻しても信託財産は保全される。この倒産隔離が、会計上「現金」に含めてよいという判断の根拠になっている。
- 外国信託型第4号電子決済手段:日本の制度と同等性が認められた外国法令に基づく信託受益権方式のステーブルコイン。外国の信託銀行等が発行するものが想定される。金商法上の有価証券とみなさない旨の手当てがされており、これがないと有価証券としての開示・業規制が及んでしまう。
- 実務対応報告:ASBJが公表する会計基準等の一種で、新しい取引や法令改正に対して当面の取扱いを定めるもの。包括的な会計基準の開発を待たず、必要最小限の項目に絞って実務の混乱を防ぐ目的で用いられる。
- 倒産隔離:ある資産を、それを管理する事業者の破産手続の影響から切り離す仕組み。信託を用いる場合、信託財産は受託者の固有財産とは別に扱われるため、発行体の信用リスクが利用者に及びにくくなる。ステーブルコインの設計で信託型が選ばれる主要な理由がこれである。
出典
- 企業会計基準委員会「実務対応報告公開草案第74号(実務対応報告第45号の改正案)『資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)』等の公表」(2026年8月17日): https://www.asb-j.jp/jp/project/exposure_draft/y2026/2026-0817.html
- 企業会計基準委員会 波多野貴啓「実務対応報告公開草案第74号『資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)』等の概要」(2026年8月17日): https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/20260817_manual.pdf
- 企業会計基準委員会「コメントの募集及び本公開草案の概要」(2026年8月17日): https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/denshikessai2026_01.pdf
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。