2026年9月1日に公表された民間調査レポートで、韓国の中銀主導のCBDC実証と民間ステーブルコイン立法の進度が逆転している状況が示された。韓国銀行の「プロジェクト漢江」は2026年3月に第2段階へ入り、参加銀行9行で条件付き資金執行の実証を進め、実取引の開始は早ければ9月とされる。一方、ウォン建てステーブルコインの根拠となるデジタル資産基本法の第2段階は、韓国銀行と金融委員会の対立などにより約1年遅延している。トークン証券の法改正は2027年2月4日施行だが、下位規定は未公表のままである。
何が起きたか
韓国銀行は預金トークンを基盤とするCBDCの実取引パイロットについて、第1次結果報告書を2025年12月18日に公開し、2026年3月29日に第2段階へ着手した。第2段階は技術検証にとどまらず、電気自動車補助金や業務推進費など実際の条件付き資金執行を実証する内容で、参加銀行は9行に拡大した。実取引の開始は早ければ9月と見込まれるが、テスト期間は定められていない。他方、ウォン建てステーブルコインの制度化を担うデジタル資産基本法の第2段階は、民間発行体に銀行コンソーシアムの持分51%以上を求めるか否かをめぐる韓国銀行と金融委員会の対立に加え、6月の統一地方選挙で立法論議が中断したことにより、約1年の遅延に至っている。トークン証券については、電子証券法と資本市場法の改正案が2026年1月15日に国会を通過し2027年2月4日施行が決まったが、対象資産の範囲や認可要件は大統領令等に委ねられ、下位規定は8月末時点で未公表である。
なぜ重要か
韓国を見るときに重要なのは、制度整備の順序が結果を左右する点である。日本では資金決済法の改正でステーブルコインの法的位置づけが先に定まり、そのうえで発行と流通が動き出した。韓国はその逆で、中銀の実証が先行し、民間発行の根拠法は空白のまま残っている。この状態が続けば実需はCBDCと預金トークンの側に寄り、民間ステーブルコインは市場が形成される前に用途を奪われる可能性がある。トークン証券も、分散台帳を法的な口座簿と認める法律が2027年2月に施行される一方で対象資産の範囲が確定せず、発行と流通のあいだに時差が生じる懸念が指摘されている。韓国に拠点を持つ邦銀・証券会社は、施行日ではなく下位規定の公表日を実務の起点に置くべき局面にある。
注視点
デジタル資産基本法の政府案は、9月の定期国会で議員立法の形で提出される可能性が高いとされる。銀行持分51%要件と取引所の大株主持分制限が最大の争点で、この決着がウォン建てステーブルコイン制度化の成否を左右する。なお本稿の記述は民間調査レポートに依拠しており、当局の一次公表による裏付けは各項目の公表時点で改めて確認する必要がある。
進捗段階
CBDCは実装トラック②〜③(限定パイロットから部分稼働へ)。条件付き資金執行という反復的な業務フローを対象とし参加行も拡大しているが、既存の資金執行を置き換えたとまでは言えない。ステーブルコイン制度は**規制トラック⓪(政策討議段階)で、法案の国会提出にすら至っていない。トークン証券は規制トラック②(成立済み・未施行)**である。
用語解説
- プロジェクト漢江:韓国銀行が進めるホールセール型CBDCと預金トークンの実証プロジェクト。中央銀行が発行するデジタルの中銀マネーを基盤に、市中銀行が預金をトークン化して載せる二層構造をとる。伝統的金融でいえば、日銀当座預金と銀行預金の関係をそのまま台帳上に写した構成に近い。
- 預金トークン:銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして表現したもの。発行体は銀行であり、預金保険や既存の銀行監督の枠内にとどまる点で、ノンバンクが発行するステーブルコインと法的性格が異なる。既存の勘定系を置き換えるのではなく、その上に移転レイヤーを重ねる発想である。
- デジタル資産基本法:韓国で検討が進む暗号資産・ステーブルコインの包括的な規制枠組み。第1段階で利用者保護を先行させ、第2段階で発行規制などを扱う二段構えとされてきた。この第2段階が成立しない限り、ウォン建てステーブルコインの発行主体を定める根拠が存在しない。
- 下位規定(大統領令・監督規定):法律が骨格だけを定め、対象資産の範囲や認可要件などの実務要件を政令・規則に委任する立法手法。施行日が決まっていても下位規定が出なければ実務は動かせず、日本でいえば内閣府令や監督指針の公表待ちの状態に当たる。
- 条件付き資金執行:あらかじめ定めた条件が満たされたときにのみ資金が動くよう、送金にプログラムを組み込む仕組み。補助金の目的外使用の防止などが典型で、伝統的な資金決済では事後の証憑確認と精算で担保していた統制を、送金の実行時点に前倒しする発想である。
出典
- タイガーリサーチ「한국 암호화폐 시장, 2026 하반기 최신 가이드」(2026年9月1日): https://reports.tiger-research.com/p/korea-crypto-market-a-guide-to-the-kor
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