米セキュリタイズが、ニューバーガー・バーマンを副運用会社に迎えたトークン化ハイイールド債ファンド「HINC」の提供を開始した。米国債とMMFに偏ってきたトークン化ファンドが、価格発見に時間のかかる信用リスク資産へ初めて本格的に踏み出した事例である。
何が起きたか
セキュリタイズ(NYSE: SECZ)は2026年8月18日、「Neuberger Securitize High Income Tokenized Fund(HINC)」の提供開始を発表した。ハイイールド債を主軸に、CLO(ローン担保証券)やレバレッジドローンといった収益型の債券にも投資する。
持分はアバランチ、イーサリアム、ソラナ、スイの4チェーンで発行され、適格投資家および適格購入者に限定して提供される。オンボーディング、KYC/AML確認、法域ごとの適格性審査を経る必要がある。投資助言はSecuritize Capital LLC、募集はSecuritize Markets, LLCが担う。
ニューバーガーにとってトークン化ファンドの副運用受託は初めてとなる。同社の債券プラットフォームの運用資産は2,300億ドル(約36兆3,400億円)、全社では6,130億ドル(約96兆8,540億円、いずれも6月末時点)。円換算は1ドル=158円(2026年8月20日)で計算した。
なぜ重要か
トークン化ファンドはこれまで米国債とMMFに偏ってきた。信用リスクがほぼなく、価格が日々刻々と把握でき、24時間の発行・償還と相性が良いためである。
HINCはその外側に出た。ハイイールド債、CLO、レバレッジドローンは、いずれも取引が相対中心で流動性が薄く、価格発見に時間がかかる。ここで日本の運用会社と信託銀行に跳ね返るのが、トークンが移転できる時間と、裏付け資産の価格が形成される時間のずれである。トークンは24時間移転できるが、原資産の時価は市場が開いている間しか付かない。既存の公募投信で議論されてきた解約制限やスイングプライシング(大量解約時に基準価額を調整し、残存受益者の負担を抑える手法)と同じ論点が、そのままオンチェーンに持ち込まれる。
加えて、機関投資家が担保として受け入れる際の掛け目設計も、国債トークンとは別の枠組みが要る。
注視点
ファンド規模は開示されていない。最大の検証点は、市場ストレス時に大量の解約請求が来た場合の挙動である。裏付けがハイイールドである以上、売却が追いつかない局面は構造的に起こりうる。4チェーン同時発行における持分の整合性管理も実務上の負荷となる。セキュリタイズは2026年7月に投資助言業者としてSEC登録を済ませており、規制対応を固めた発行体が信用リスク資産へ踏み込む流れが続くかが焦点となる。
用語解説
トークン化ファンド:ファンドの持分(受益権)をブロックチェーン上のトークンとして発行・管理する仕組み。従来は運用会社や販売会社の帳簿で管理していた保有者情報を、チェーン上の記録に置き換える。決済の即時化や24時間の発行・償還を狙うが、法的な持分の性質そのものが変わるわけではない。
サブアドバイザー(副運用会社):ファンドの運用助言・実務を、正式な投資顧問会社から委託されて担う運用会社。ここではセキュリタイズ系列が投資助言業者として登録され、実際の債券運用判断をニューバーガーが担当する構造になっている。
ハイイールド債:投資適格未満の格付けを持つ社債。信用リスクが高い分だけ利回りも高い。取引所ではなく相対(OTC)で売買されることが多く、日々の市場価格が常に付いているわけではない点が、価格の連続性を前提とするオンチェーン取引と相性の面で課題になる。
CLO(ローン担保証券):企業向けの貸付債権(主にレバレッジドローン)を多数まとめ、リスクの階層ごとに切り分けて発行する証券化商品。日本の金融機関も投資先として保有しているが、原資産の流動性が低く、評価は外部評価に依存する部分が大きい。
適格投資家・適格購入者:米証券法上の投資家区分。一定の資産規模や収入要件を満たす投資家に限って、登録届出を経ていない私募商品の取得が認められる。日本の特定投資家(プロ投資家)制度に近いが、要件と適用範囲は異なる。
出典
- Securitize「Securitize and Neuberger Launch New Tokenized Fixed Income Fund」(2026年8月18日): https://www.prnewswire.com/news-releases/securitize-and-neuberger-launch-new-tokenized-fixed-income-fund-302853551.html
- Securitize「HINC」商品ページ: https://securitize.io/hinc
- 為替レート出所:2026年8月20日の東京市場実勢(1ドル=158円で換算)
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。