米SECは2026年10月1日、投資顧問業者と登録ファンドが顧客の暗号資産を保管する際のルールを定める規則案を公表した。州の銀行当局から暗号資産カストディの認可を受けた州信託会社を保管機関として認め、他に利用できる保管機関がない場合に限って、顧問業者自身による保管も認める。日本の運用会社や信託銀行にとっては、米国で暗号資産を組み入れる商品の保管先の選択肢と、求められる統制の水準が論点になる。意見募集は官報掲載から60日間で、最終規則の時期は示されていない。
何が起きたか
SECは10月1日、投資顧問業者法と投資会社法に基づくカストディ規則について、暗号資産の扱いを定める改正案を公表した。柱は2つある。1つ目は州信託会社の活用である。顧問業者やファンドは、相手が州の銀行当局から暗号資産カストディの認可を受けていること、盗難や流用を防ぐ方針を書面で定めていること、監査済みの財務諸表と内部統制の報告書を備えていること、顧客の資産を自社の資産と分けていることを確認したうえで、保管を委託できる。2つ目は顧問業者自身による保管である。利用できる保管機関がほかにないと事前に判断し、その後も四半期ごとに確認することが前提となる。そのうえで、秘密鍵の管理、2人以上による取引の共同承認、毎年のサイバー対策の点検、独立した会計士による検証、顧客への四半期ごとの報告などを求める。ファンドが自ら保管する場合は、取締役会による四半期ごとの確認も必要になる。
なぜ重要か
米国の運用会社が暗号資産を直接持つうえでの制約は、資産そのものより保管先の少なさにあった。今回の案は、担い手を州信託会社にまで広げ、満たすべき条件を具体的に示す。日本の金融機関にとっては2つの意味がある。1つは、米国で暗号資産を組み入れたファンドを組成・販売する際、保管先を選ぶ基準がはっきりすることである。もう1つは、国内で暗号資産の投資信託や、信託による保管の態勢を検討する際の参照になることだ。2人以上による共同承認や、独立した会計士による検証といった統制の要件は、国内の信託会社や交換業者の態勢と並べて比較しやすい。
注視点
官報への掲載日と、その後60日間の意見募集で、銀行業界が州信託会社との競争条件をどう主張するかがまず焦点になる。「他に利用できる保管機関がない」という自己保管の前提を、どう判断するのかの基準が具体化されるかも論点である。最終規則の時期は示されていない。
進捗段階
制度トラック:①(規則案の公表段階。意見募集はこれから始まり、最終規則は未定) 実装トラック:対象外
用語解説
-
カストディ規則:投資顧問業者が顧客の資産を自ら保管せず、銀行など一定の要件を満たす保管機関に預けるよう求める米国の規則。運用者が資産を流用する事態を防ぐのが目的である。日本でいえば、投資運用業者に求められる分別管理と、信託銀行による受託の役割分担にあたる。
- 英:custody rule / 用例:The proposal updates the custody rule so advisers can hold crypto assets for clients. (この案は、顧問業者が顧客の暗号資産を保有できるようカストディ規則を改める)
-
州信託会社:米国の州法に基づき、州の銀行当局の認可を受けて資産の受託や保管を行う会社。連邦の免許を持つ銀行に比べて設立しやすく、暗号資産の保管を専業とする会社が多い。今回の案は、一定の確認を条件に、これを保管機関として使える道を開く。
- 英:state trust company / 用例:Advisers must confirm that a state trust company is authorized to provide crypto custody. (顧問業者は、州信託会社が暗号資産の保管を認可されていることを確認しなければならない)
-
自己保管:保管機関に預けず、資産の持ち主や運用者が自ら秘密鍵を管理して保管すること。暗号資産では、鍵を持つ者が資産を動かせるため、鍵の管理がそのまま保管の中身になる。今回の案は、顧問業者による保管を、他に担い手がない場合の例外として位置づけている。
- 英:self-custody / 用例:Self-custody is allowed only when no permitted custodian can hold the asset. (自己保管は、その資産を預かれる保管機関がない場合に限って認められる)
-
共同承認:取引を実行する前に、複数の担当者の承認を必要とする統制。暗号資産では、1人の担当者や1つの鍵の不正・紛失で資産が失われるのを防ぐ。銀行の送金業務で、起票者と承認者を分ける考え方に近い。
- 英:joint authorization / 用例:Every transfer requires joint authorization by at least two employees. (すべての送金には、少なくとも2人の職員による共同承認が必要となる)
出典
- 米証券取引委員会(SEC)「SEC Proposal Would Address How Investment Advisers and Funds Can Custody Crypto Assets Under Federal Securities Laws」(2026年10月1日): https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2026-100-sec-proposal-would-address-how-investment-advisers-funds-can-custody-crypto-assets-under-federal
- 米証券取引委員会(SEC)ファクトシート(IA-7023)(2026年10月1日): https://www.sec.gov/files/ia-7023-fact-sheet.pdf
- ヘスター・ピアース委員の声明(2026年10月1日): https://www.sec.gov/newsroom/speeches-statements/peirce-statement-proposed-amendments-custody-rules-100126
- ポール・アトキンス委員長の声明(2026年10月1日): https://www.sec.gov/newsroom/speeches-statements/atkins-crypto-custody-100126-statement-proposal-address-custody-crypto-assets-under-investment-advisers-act-investment-company
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。