SBIホールディングスは2026年9月18日、シンガポールでデジタル決済を手がけるdtcpayへの出資を発表した。子会社のSBI Ventures Assetと、グループが運営するSBI-NTU-Kyobo Digital Innovation Fundを通じてシリーズAに参加したもので、出資額は開示されていない。dtcpayはラウンド総額を2,500万ドル(約39億2,100万円、1ドル=156.85円で換算)と公表した。同社はシンガポール金融管理局の主要決済機関ライセンスを持つ。
何が起きたか
出資はdtcpayのシリーズAラウンドへの参加で、実行主体はSBI Ventures Asset Pte. Ltd.とSBI-NTU-Kyobo Digital Innovation Fundの二つである。報道によれば、同ラウンドは2026年4月にVertex Ventures Southeast Asia & Indiaが主導して始まり、SBIグループの参加により総額2,500万ドルとなった。Genedant Capitalと既存投資家も参加している。dtcpayは2019年設立でCEOはAlice Liu氏。ステーブルコインと法定通貨の受け取り・保管・交換を法人と個人に提供し、独自の即時交換エンジンで国際送金の短縮を図る。規制面ではMASの主要決済機関ライセンスに加え、ルクセンブルクで電子マネー機関ライセンスを保有する。SBIグループは今回の資金を、法人向け管理画面の刷新と加盟店網の拡大に充てる方針だと説明している。
なぜ重要か
日本では円建てステーブルコインの発行側が先に動いてきたが、発行だけでは決済は成立しない。受け取る加盟店、法定通貨に戻す出口、そしてそれを提供できる規制上の資格を誰が持つかが、実際の使い勝手を決める。SBIは自らJPYSCを発行する一方で、今回はMASライセンスを持つ受け側に資本を入れた。銀行や決済事業者にとっては、海外の加盟店網を自前で構築する代わりに、現地ライセンス保有者へ出資して経路を確保するという選択肢が実例として示されたことになる。ただし出資は業務提携ではなく、円建て銘柄の取扱いが決まったわけでもない。
注視点
出資額と持分比率が開示されるか。dtcpayの対応銘柄に円建てステーブルコインが加わるかどうかが、日本の実務に直結する最初の指標になる。今回用いられたSBI-NTU-Kyoboファンドには韓国の教保生命が関与しており、9月に公表された円ウォン直接交換の実証との接続も観測点である。制度面では、MASがステーブルコインの法制化に向けた意見募集を進めており、主要決済機関ライセンスの要件が変われば、この経路の前提も動く。
進捗段階
実装トラック ⓪(資本参加の段階。決済業務の連携やステーブルコイン銘柄の相互乗り入れは公表されていない)
用語解説
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主要決済機関ライセンス(Major Payment Institution licence):シンガポールの決済サービス法に基づく免許で、取扱高が一定の基準を超える決済事業者に求められる。送金、電子マネー発行、デジタル決済トークンサービスなどを対象とし、資本・顧客資金の分別・マネロン対策の要件が課される。日本の資金移動業と電子決済手段等取引業を合わせたような位置づけにあたる。
- 英:major payment institution (MPI) licence / 用例:The firm holds an MPI licence from the regulator for its cross-border payment services. (同社は越境決済業務について当局から主要決済機関ライセンスを取得している)
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電子マネー機関ライセンス(electronic money institution licence):EU域内で電子マネーの発行と関連する決済サービスを行うための免許。受け入れた資金を分別管理し、額面で払い戻す義務を負う。銀行免許より軽い要件で決済業務に参入できる枠組みとして整備された。dtcpayはルクセンブルクでこれを保有する。
- 英:electronic money institution (EMI) licence / 用例:An EMI licence lets the issuer redeem balances at par without holding a banking licence. (電子マネー機関ライセンスがあれば、銀行免許がなくても残高を額面で払い戻せる)
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オフランプ:ステーブルコインなどのデジタル資産を法定通貨に戻す出口のこと。逆に法定通貨をデジタル資産に換える入口をオンランプと呼ぶ。決済手段として成立するかは、入口よりも出口の手数料と処理速度、そして受け入れる金融機関の有無に左右される。
- 英:off-ramp / 用例:Merchants need a reliable off-ramp before they will price goods in stablecoins. (加盟店は、商品をステーブルコイン建てで値付けする前に信頼できるオフランプを必要とする)
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アンカー投資家:資金調達ラウンドで最大級の金額を出し、他の投資家の参加を呼び込む役割を担う出資者。出資比率だけでなく、事業上の提携や信用補完を伴うことが多い。今回はSBIグループがこの位置づけで報じられている。
- 英:anchor investor / 用例:The round closed with the Japanese group named as its anchor investor. (同ラウンドは、日本のグループをアンカー投資家として完了した)
出典
- SBIホールディングス「ステーブルコイン決済を手掛けるdtcpay社への出資に関するお知らせ」(2026年9月18日): https://www.sbigroup.co.jp/news/2026/0918_16595.html
- The Block「Stablecoin payments firm dtcpay closes $25 million Series A with SBI Group investment」(2026年9月18日): https://www.theblock.co/news/business/2026-09-18-dtcpay-series-a-sbi-group-415483
- あたらしい経済「SBI、シンガポールのステーブルコイン決済企業dtcpayに出資」(2026年9月18日): https://www.neweconomy.jp/posts/609183
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。