NEWSその他実装⓪合意・表明のみ2026-08-31

インド、初のトークン化社債を9月に発行へ ホールセールCBDCで決済

中央銀行のデジタル通貨と証券当局の発行制度を、一つの取引の中でつなぐ試みである。技術ではなく、二つの当局の接続点が試される。

BY OFM Research · 4 MIN READ

SHARELB!

ロイターは8月24日、インドが9月に初のトークン化社債を発行する見通しだと報じた。発行体は国営電力金融のREC、発行額は50億ルピー未満(報道の米ドル換算で約5,700万ドル、1ドル=160円換算で約91億円)で、代金決済にはインド準備銀行のホールセールCBDCを用いる。投資家はCBDCウォレットと、預託機関が新設する証券ウォレット「DEMAT 2.0」の双方を保有する必要があるという。報道は匿名の関係者3人の証言に基づき、準備銀行、証券取引委員会、RECはいずれもロイターの取材に回答していない。

何が起きたか

報道によれば、インド証券取引委員会と準備銀行が共同で技術の実装を進めており、RECが最初の発行体となる。発行額は50億ルピー未満で、9月にムンバイで開かれる金融技術の年次イベントで公表される見込みとされる。投資家は、銀行が提供するホールセールCBDCのウォレットと、預託機関NSDL・CDSLが開発中の電子証券ウォレット「DEMAT 2.0」の両方を持つ必要がある。以後の売買も、双方のウォレットを備えた参加者の間でのみ成立する。当初は限られた投資家に対象を絞り、3か月のロックアップを設ける。流通市場は12月をめどに取引所が整備する見込みで、既存の電子ブック提供プラットフォームでは取引されない。

なぜ重要か

日本でも、日銀と金融機関がトークン化した中銀当座預金で国債・株式を決済する構想が動いている。インドの設計が示すのは、資金側と証券側をそれぞれ別に整えたうえで、投資家にウォレットの二重保有を求める形で接続する経路である。証券会社にとっては、顧客がCBDCウォレットを持てるかどうかが取引可能性そのものを規定する。既存の取引プラットフォームを使わない点も見過ごせない。新しい流動性が既存市場から切り離されるため、日本で同種の仕組みを設計する際も、既存の振替制度と並走させるか置き換えるかという選択が、そのまま流動性の分断リスクに直結する。

注視点

日程も枠組みも確定していない。DEMAT 2.0が実際の債券ポジションを扱える状態にあるか、参加銀行のCBDCウォレット連携がどう処理されるかが、実行可能性を左右する。流通市場の整備時期は3か月のロックアップ明けと重なるため、ロックアップが解けた時点で売買の受け皿があるかどうかが最初の試験になる。証券当局と中央銀行が最終的にどのような市場規律や決済完了性の基準を公表するかも、まだ見えていない。

進捗段階

実装トラック⓪(未発行)。当事者の確認が取れておらず、匿名情報源に依拠した計画段階の情報である。発行が公表されるまでは、決定ではなく予定として扱う。

用語解説

  • トークン化社債:社債の権利をブロックチェーン上のトークンとして記録し、発行・保有・移転・決済を電子的に完結させる仕組み。従来は振替機関の帳簿で管理していた権利の記録を、分散型台帳に置き換える発想である。記録の正本をどちらに置くかで、法的な位置づけが大きく変わる。
  • ホールセールCBDC:金融機関の間の決済にのみ用いる中央銀行デジタル通貨。一般利用者向けのリテール型と異なり、既存の中央銀行当座預金をトークン化したものに近い。証券決済に使えば、資金と証券の受け渡しを同時に完結させる余地が生まれる。
  • DEMAT 2.0:インドの預託機関が開発中の電子証券ウォレット。従来のデマット口座(インドの証券保管口座)を分散型台帳ベースで再構成するもので、CBDCウォレットと対になって初めてトークン化債券の取引が成立する設計とされる。
  • ロックアップ:発行後の一定期間、保有者の売却を禁じる取り決め。試行段階の商品では、流通市場の整備が間に合わないことへの備えとして置かれることが多い。
  • 電子ブック提供プラットフォーム:インドで一定規模以上の私募社債の発行に用いられる電子入札の仕組み。今回のトークン化社債はここを経由しないため、既存の発行実務とは別線で処理される。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-31

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週お届け

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。