NEWSグローバル実装③本番稼働(限定領域)2026-08-29

金融機関の88%がデジタル資産インフラに予算措置、本番稼働は16%

予算はついた。だが稼働はしていない。この二つの数字の開きこそが、オンチェーン金融の実装局面をいま最も正確に言い表している。

BY OFM Research · 4 MIN READ

SHARELB!

ジタル資産基盤事業者のFireblocksが2026年5月に公表した調査報告「The Financial Grid」によれば、世界の金融機関と事業会社の意思決定者638人のうち、88%が2026年にデジタル資産インフラへ予算を投じたか投じる予定と回答した一方、本番稼働に到達した機関は16%にとどまった。同社は2026年8月28日にニューヨーク証券取引所の番組でこの結果に言及している。自社の顧客基盤を含む事業者調査であり、数値は回答者の自己申告に基づく点に留意が必要である。

何が起きたか

調査は2026年1月、The Value Exchangeが北米、欧州、中南米、アジア太平洋、中東・アフリカの638人を対象に実施した。回答者は国際・地域のトランザクションバンク、投資銀行、商業銀行、デジタル銀行、カストディアン、金融市場インフラ、およびその法人顧客の経営層と上級意思決定者である。予算措置が88%に達する一方で本番稼働は16%であり、同社はこの差を報告の中心的な発見と位置づけている。規制環境については96%が良好または非常に良好になると見込むと回答した。米国版の報告では、米国の金融機関の68%が2026年末までに自社でステーブルコインを発行する計画と答え、欧州の36%、アジア太平洋の11%を上回った。他の規制対象機関が発行するステーブルコインを利用する計画は79%だった。

なぜ重要か

この調査は事業者による自社調査であり、回答者の構成が同社の顧客基盤に寄っている可能性は否定できない。それでも、予算と稼働の乖離という指摘は他の観測とも整合する。日本の金融機関にとっての実務的な含意は、社内の投資判断を説明する際に「他行も動いている」という論拠が、予算段階の動きなのか稼働段階の動きなのかを区別する必要があるという点にある。発表と稼働を混同した比較は、投資回収の見通しを誤らせる。地域差も重要で、アジア太平洋の発行意向が11%と低いのは、規制の成熟度と銀行の預金基盤の厚さを反映しているとみられる。日本が制度整備で先行しながら発行意向が突出しないのは、この構造と整合的である。

注視点

16%という本番稼働の比率が来年の調査でどこまで上がるかが、実装局面の進み具合を測る最も直接的な指標になる。あわせて、本番稼働の定義が回答者ごとにどう解釈されているかは報告書からは判別できない。単一顧客の内部での資金移動と、複数銀行にまたがる取引とでは難易度が大きく異なる。第三者機関による同種の調査が出れば、数値の頑健性を確認できる。

進捗段階

実装トラックの分布を示すデータであり、単一案件の進捗段階には該当しない。回答企業の大半は⓪から①(検討・予算措置)の段階にとどまり、③以上に到達したのは16%である。

用語解説

  • 本番稼働(プロダクション):試験環境ではなく、実際の顧客資産や実取引を扱う状態で稼働していること。実証実験との境界は運用者の判断に委ねられるため、調査の数値を読む際は定義の確認が必要になる。
  • トランザクションバンキング:企業向けの決済、資金管理、貿易金融などを扱う銀行業務。デジタル資産インフラの導入が最初に検討されやすい領域で、法人顧客の要望が投資判断の直接の動機になりやすい。
  • カストディアン:有価証券やデジタル資産を顧客に代わって保管・管理する機関。トークン化資産では秘密鍵の管理が保管業務の中核になるため、従来の保管とは異なる技術要件が生じる。
  • The Value Exchange:金融市場インフラ分野の調査を手がける事業者。今回の調査で実査を担当している。委託元と実査主体が分かれている点は、調査の独立性を評価する材料のひとつになる。
  • 自己申告データ:回答者の申告に基づき、第三者による検証を経ていないデータ。業界調査では一般的な手法だが、望ましい姿を答える傾向が働きやすく、進捗が過大に出る方向にゆがみうる。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-29

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